周りのみんなは、あれが欲しいとかこんな風になりたいとか言うけど、私にはそういうのがあんまりない。程々の仕事をして、特別裕福でも貧乏でもない普通の家庭を築いて、70くらいになったら大事な人2,3人に囲まれて死ねればそれでいいかな。
『欲望』
ガタン、ゴトンーー
揺れる車体に身を任せ、力を抜いて、ただそこに座っている。周りの人はスマホを見るか、居眠りするかばかり。誰も私のことなんか気にしない。
このまま、どこか遠くへ行ってしまいたいな。ただただ電車に揺られて、誰も知らない街へ行って、美味しいご飯を食べよう。温泉に浸かって、日々の疲れから解放されるんだ。そしたら思いっきりーー
聞き慣れたアナウンスが妄想に走る私の脳みそを引き止める。夢のような誘惑を振り払い、足に力を込める。さ、今日も仕事だ。
『列車に乗って』
1年に何回か、ごくたまに、見慣れた景色を見たくなくなる時がある。住み慣れた町を離れて、知り合いのいないどこか遠くへ行ってしまいたくなる。画面の中のキラキラした都会に行けば、私も変われるんじゃないかって、そう思ってしまう。柵とか、世間の目なんて気にならない、私が私らしくいられる場所に。
『遠くの街へ』
あの幸せな日々を、取り戻せたらなって。その想いが私の足を勝手に動かす。何もなくたって、誰もいなくたって、またあの場所に帰ってきてしまう。求めてるものは、そこにはないのに。本当に欲しいのは、あの時の栄光とか成果とか、そんなんじゃない。一緒に笑って、楽しい時間を過ごした仲間が、そこにいてくれたなら。目を閉じれば、今でも笑い声が聞こえてくる。私を呼ぶ声が耳にこびりついている。
頬に当たる冷たい風が、辛い現実を教えてくれる。
SNSのアイコンが変わると、必ず気づいてしまう。スポーツ選手か、ラッパーか、派手な外人の写真。よくは知らないけど、相変わらずセンスがいいなぁと思う。最近は珍しくよく投稿してるようで、ご飯や、夕焼けの写真が並んでる。
元気そう。
少し安心した。と同時に、どこか淋しさを感じる。
らしくなく泣いてた、彼の顔を思い出す。それを見ても、もう何も感じなくなってしまった自分の冷たさも。
もう、私のことなんて忘れちゃってるよね……
ごめんね、同じようにあなたを愛せる女じゃなくて。
身勝手なお願いなのはわかってる。けど、どうか幸せでいてほしいんだ。
『君は今』