この国のルールは、決して空を見上げないこと。
何故かは誰にも分からない。
いや、厳密に言えば、大人は知っている。
でも、僕ら子供には空を見上げてはならない理由が分からない。
だから、僕らは空に大きな憧れを抱いて過ごしてきた。
───空を見上げてはならない。それは、現実を知って自死する人が増えたから。
私は今年、20歳になった。
20歳になると、子供の頃に夢描いた空の事実を知らされる。
この国では、空を見てはならないどころか、飛行機にさえ乗ることは出来ない。
なぜなのだろうか、と疑問に思ったことはあるが、誰一人として教えてくれる人はいなかった。
20歳になると、1度だけ、空を見せてもらえる。
私たちが夢見た空は、絵本で書いてあるような青い空ではなかった。
真っ黒だった。
光は人口のものを当てているだけ。
1度、一瞬の方が正しいかもしれない。
それからは、もう二度と見せて貰えない。
真っ黒な上に、空には透明の覆いがされていた。
この国をドーム型に包み込んでいるのだとか。
真っ黒な汚染された空気から私たち人間を、生物を守っているのだという説明を受けたが、きっと違うのだろう。
確かに、幼い子供が聞けば、絶望を感じるに違いない。
実際、私たち20歳になった人間が、事実を知らされた日と、その次の日は、その人たちだけは休日になる。
仕事に身が入らないからだ。
無論、私も何も考えられなかった。
私たちは一生、この暗闇に包まれたこの国で生きていかなければならないのか。
僕は20歳になったときの空を見るときを夢見て生きていくんだ
───私はこの現実からどうやって立ち直ったらいいんだろうか
昨日は嫌なことだらけだった。
なにかしている事も、本当は何も出来ていないことも。
呼吸をしていることも、存在していることも。
生きていることが嫌な日だった。
その前の日も、その前の日も。
ずっとそんな日々。
だから、昨日は、じゃなくて、昨日も。
毎日毎日僕の心は真っ黒。
雨模様とか、そんな綺麗なものじゃない。
鉛筆でぐしゃぐしゃに適当に塗りつぶされた色。
真っ黒に染っているわけでもないのに、黒い。
嫌なことばっかり考えて、心の中は真っ黒。
今日は、どうだろう。
きっといつもと同じだ。
でも、ほんの少しでいいから、僕の心に灯りが欲しい。
灯りじゃなくてもいい、綺麗さが欲しい。
僕が願う心は、雨模様。
僕は正解を探していた。
学校の宿題の答えじゃなくて、
どうしたら君と友達でいられるかを。
僕らが出会って5年が経った。
僕らの出会いは、ごく普通の、中学の入学式の日。
何か特別なことがあったわけではない。
僕の後ろの席が君だっただけ。
僕は小学校卒業の時に引っ越したばかりだったから、友達なんかいなかった。
そんなときに、少しずつ喋り始めたのが君だった。
ごく普通の出会いから、僕らの仲は特別なものになった。
僕らは周りから見たら、親友と呼べるものだろう。
でも、君と出会って5年が経った今、僕は引越しを控えていた。
父の転勤が多いために、幼稚園の頃から転校を繰り返していた僕にとって、君は1番の友達だった。
僕は君に問うた。
「僕が引っ越しても友達でいてくれる?」
君は答えなかった。
君はそういう人だ。
肝心な時は少し逃げる。
遂に、引越しの日になった。
君と出会って、仲を深め合った日々がたとえ、間違えだったとしても、僕は君と友達になれて嬉しかった。
僕だけは、いつまでも君と友達でいたいと思っている。
父に呼ばれた。
「もう出発するぞ」
「うん」
「待って!」
車に乗り込もうとした僕に話しかけたのは君だった。
「これ、持って行って」
君は手紙を渡してくれた。
「またね」
君は言った。
手紙にはこう書いてあった。
───「いつまでも僕の1番の友達でいてください」
僕の目に映る世界は、色がない。
いや、厳密に言えば、ちゃんと見えている。
でも、僕の過去や将来を考えた時、僕の人生には色がない。
特に、未来の方は、何も映らない。
僕には将来の夢がない。
前は確かに、あった。
でも、それは夢の見すぎだって気づいた。
だから、僕はそんなに大層な夢を抱いてはならない。
将来の夢がなければ、今から進むべき道も分からない。
だから、僕の将来は何も映らない。
こんな僕が、皆が想像する色鮮やかな世界に向かって歩いていても良いのだろうか。
僕は皆と違う。
皆より劣っている。
僕は世界の中から消えてしまった方がいいのでは無いだろうか。
僕の真っ黒な感情が渦巻く。
感情は無色で、何も映らなくていいのに。
なんで映らなくていいものに色がついてて、映って欲しいものに色がないんだろう。
僕の存在には色があるんだろうか。
卒業式の日に満開だった桜は日を追う事に色を失う。
僕の心も日を追う事に沈んでいく。
僕にとって、高校生活はかけがえのない宝物だった。
そして、日常だった。
そんな日々が突然、変わってしまった。
自分で望んだ大学進学。
でも、入学式も終わり、大学生活が日常になりつつある、現在。
何故か、少し、寂しい。
大学進学を機に、地元を離れた。
地元と同じことは、空と桜の木だけだった。
僕の高校は、桜が綺麗に咲く。
卒業式の日、満開の桜が僕らの門出を祝した。
大きく咲き誇った、桜は、心から僕たちの門出を祝ってくれているようだった。
引越しをして、一人暮らしを始めたが、近くに大きな桜の木があった。
その木は、あの時と同じように、大きく咲き誇っていた。
それが、僕と高校生活を繋ぐ架け橋のようなものだったのだ。
毎日桜の木を見て、高校生活を思い出した。
その桜も散ってゆき、色を失った。
僕の頭の中にある、高校生活も白黒画像のようになった。
寂しい以外の言葉が見当たらない。
植物は僕と過去を繋ぐ。
来年の桜を見る頃に、僕はまた、色のついた高校生活を思い出す。