冷たい手を温めてくれるカイロ。
ぬくもりといえば、小学生の運動会でやった二人一組で踊るダンスを思い出す。
俺は女子とペアで、多分女子の手を人生で初めて握ったと思う。
柔らかくて、温かかったなぁ……。
女子の名前は忘れちゃったけど、可愛かった記憶がある。
きっと大人になった今、もっと可愛くなっているだろう。
さて、手が温もったことだし、同窓会の会場へ行くか。
「あれ?もしかして田中君?久しぶり!変わってないね!」
会場に着くと、可愛らしい女性に話しかけられた。
今日は今年一番寒い登校の朝。
こんな日に限って手袋をするのを忘れてきてしまった。
手が冷えて、凍ってしまったかのような感覚だ。
「うぃーっす。って、手を擦ってなにしてるんだ?」
同じクラスの鈴木君が、ポケットに両手を入れながら話しかけてきた。
「手袋忘れちゃって……擦って温めてるの」
「ふーん、じゃあこれ使いなよ」
鈴木君はポケットから手袋を出して、私に差し出した。
「え?でもこれ、鈴木君のじゃ……」
「手袋着けてるとなんか手がかゆくなるんだよなー。だからポケットに手を入れて温めてるんだよ」
だからポケットに両手を入れていたんだ。
「せっかくだから借りようかなぁ」
「おう、あとで返してくれたらいいから」
鈴木君から手袋を受け取り、早速両手に着ける。
手袋は大きくて、すごく温かい。
「今日は一限目から歴史の授業かー。だりぃなぁ」
「鈴木君いつも寝てるじゃん」
世間話をしながら、鈴木君と一緒に学校へ向かった。
どこまでも続いている真っ白の雪原。
昨夜雪が降ったらしく、一夜で白い世界へと変わった。
看板が立っているが、雪で埋もれていて読めない。
ここを通れば、次の町まで近道出来ると商人に教えてもらった。
よし!雪原を通って次の町へ――。
「こら!そこの若いの!」
雪原に一歩足を入れた瞬間、爺さんに止められる。
「ここは先は立ち入り禁止じゃ!看板に書いてあるじゃろ!」
「看板?」
爺さんは雪で埋もれた看板に指を指す。
手で雪を除けて看板を見ると、確かに立ち入り禁止と書いている。
どうやら、近道は使えないらしい。
他の道を通るにしても、雪が溶けてからのほうがいいかもな……。
仕方なく、来た道を引き返す。
「若いの!そっちは迷いの森だぞ!反対方向じゃ!」
爺さんに言われ、慌てて向きを変えて歩く。
雪で方向感覚がマヒしているのかもしれない。
雪が積もった時に出歩くのは、やめておこう……。
息を吐くたび出る、白い吐息。
今日は一段と寒い日だ。
こうして自分の白い息を見ると、生きてるって感じがする。
……暖かくしたつもりだが、寒い。
ブルブルと身体が震える。
じーっと待っているのは辛いなぁ。
まぁ、こうして寒くて震えてるのも、生きてるって証拠。
早く来ないかなぁ……。
「ごめんごめん!お待たせ!」
白い息を吐きながら、彼氏が走ってきた。
「寒くて凍っちゃうかと思ったよぉ」
私は息を切らす彼氏に、冗談混じりで白い息を吐きながら言い返す。
お互いの白い吐息が交差し、交わる。
この光景は冬にしか見れないから、私は好きだ。
まるで人がいなくなったかのような、静か過ぎる深夜の住宅街。
家の灯りは当然点いておらず、街灯しか灯っていない。
ふう……今日も残業で疲れた。
帰ったら、ゆっくり湯船に浸かろう。
帰宅後のことを考えながら歩いていると、あっという間に我が家に到着。
我が家だけ、灯りが点いている。
「ただいまー」
「おかえり〜。今日もお疲れさま」
家の中に入ると、すぐに妻が出迎えてくれた。
帰りが遅くても、こうして出迎えてくれると心が温かくなる。
でも、遅い時間まで俺を待っている妻に申し訳なく思う。
「俺が帰ってくるのを待たずに寝てくれたらいいのに」
そう言うと、妻は「ふふっ」と微笑む。
「帰ってきて誰かが出迎えてくれたら嬉しいでしょ?」
「あ、ああ……そうだな……嬉しい」
「あなたがそう思ってくれてるから、私は苦じゃないよ」
うーむ……可愛いじゃないか。
そう言われると、早く寝ろと言えなくなる。
「それに、家の灯りは消さずに点けておきたいからね」
「どうしてだ?」
「家が暗いと気持ちも暗くなっちゃうでしょ?だから明るくしておきたいの」
確かに、妻の言う通り、家が明るいと気持ちがほっとする。
待ってくれている妻に感謝しないとな。
「そっか……いつもありがとな」
「あなたもいつも遅くまで仕事お疲れさま」
妻からも感謝され、更に心が温かくなる。
家の灯りが点いているか点いていないかの違いで、こんなにも違うのだと、改めて思った。