ホワイトボードにマジックで書く音が響く教室。
今、数学の授業をしている。
ホワイトボードには数式がずらっと並んでいて、まるで呪文だ。
解き方がイマイチ分からず、睡魔が襲ってくる。
どうせ大人になったら、複雑な数式なんて使わなくなるし、覚えなくてもいいのに。
「みんなぁ!この数式の答えは分かるかぁ!?」
数学の先生が突然大きな声を出すから、思わず身体がビクッとしてしまう。
ホワイトボードには……愛-恋=と書かれている。
「田中ぁ!答えてみろぉ!」
「お、俺ぇ!?」
まさか当てられるとは思わなかった。
愛から恋を引くと……あれか?
「えっと……友達……ですか?」
「うおおおぉぉぉん!」
先生は積み上げたブロックが崩れるように教卓の上へ倒れ込み、泣き出した。
……意味が分からん。
まず問題の意味も、答えが合っているのかすら分からない。
その後、先生は教卓から動くことなく、チャイムが鳴るまで泣いていた。
噂によると、先生は好きだった女性に告白したけどフラれたらしい。
てか、生徒に恋愛数式を答えさせるな。
俺は好きな人すらいないのに、なんだか虚しくなってしまった。
真っ白の皿の上に乗った、妻が剥いてくれた梨。
皿と同じ色の白で、表面は輝くほどみずみずしい。
一口かじると、しゃりっと音を立て、噛むたびに果汁が溢れる。
飲み込むと喉が潤い、梨はまるで飲み物だ。
梨をそのまま食べるのもいいが……。
皿の横に置いていた梨チューハイの缶を取り、プルタブを開ける。
そして、口につけ、缶を上へ少しずつ上げ、チューハイを口の中へ流す。
ゴクゴクゴク……。
喉に炭酸を通らせるのは気持ちいい。
やっぱり……これだよな!
梨は梨でも、季節限定のチューハイに限る!
「ただお酒が飲みたいだけでしょ」
「……バレたか」
妻に呆れつつ、俺は梨と梨チューハイを交互に食べて飲んで、秋を満喫した。
夜空で光り輝く無数の星達。
俺のコンサートのために集まってくれた観客達だ。
LaLaLa……。
今日、彼女にフラれてしまった。
『私、好きな人が出来たの。だから……ごめん』
ああ、切なくて悲しいな……LaLaLa。
もうこの子しかいないと思っていたのに、結婚まで考えていたのに。
LaLaLa……。
俺にはなにか、足りなかったのだろうか……。
LaLaLa……。
夜空を見上げると、星達は拍手をするかのようにキラキラと輝く。
「ありがとう……ありがとう……」
LaLaLa……GoodBye。
どこまでも続く青い空。
空を追い続けて一周し、きっとここに戻ってくるだろう。
考え事も一緒で、他の方法を考えても、結局最初の考えに戻ってくる。
……やっぱり、最初に考えたことをやろう。
青い空から勇気を貰い、「頑張ろう」と心の中で気合いを入れた。
信号や横断歩道がなく、人も車もいない静か過ぎる交差点。
行き先を示す物がないので、立ち止まって途方に暮れる。
また自分で行き先を決めろってことか。
だけど、どこへ行っても、なにが起こるか分からないからすごく不安だ。
本当に……人生って、なんでこんなに交差点が多いのだろう?
行き先が決まっていれば、楽に進めるのに。
まっ、沢山考えて、答えを見つけて進むのが人生なのだけど。
そうじゃないと、″生″を感じない。
さてと……今回はどうやって進もうかな……。
考えているうちに、横断歩道が現れ、信号が出来て、人や車が通り始めた。
「よし、こっちだな」
行こうとした道を見ると、ちょうど信号が青になる。
深呼吸をして……進むべき道へ、一歩踏み出した。