大きい家がずらっと並ぶ住宅街。
就職先が決まり、田舎から引っ越してきたが、まるで別世界にいるみたいだ。
人が多いというだけで、こんなにも違うものなのか。
就職先まで行く練習をするため、徒歩で向かう。
駅では人の流れ早くて目が回り、迷子になりかけた。
これから、この街で暮らしていくことに少し不安になる。
まぁ、慣れれば大丈夫だろう。
住んでいるマンションへ戻ると、置き配で荷物が届いていた。
まだ引っ越ししたばかりなのに、誰からだろうか?
送り主は……母からだ。
部屋に入り、早速荷物を開けてみる。
中には、実家で作った野菜や果物が入っていた。
こっちへ来てまだ数日なのに、懐かしく感じてしまう。
今日は、この野菜で料理してみるか。
見知らぬ街で心細かったけど、改めて頑張ろうと気合いが入った。
離れた空に浮かぶ巨大な入道雲。
まるでパンケーキに盛り盛りに盛った生クリームみたいだ。
空が光り、遠雷がゴロゴロと大地を揺らしながら鳴り響く。
同時に俺の腹も、ゴロゴロとお腹が空いたと訴えてくる。
これは……一雨来そうだな。
運良く、近くにはカフェがある。
傘を持ってないから、ちょうどいい。
今日の昼は、生クリーム盛り盛りのパンケーキで決まりだ。
……不覚だった。
予想以上に生クリームが激盛り盛りだったから、甘いものを食べ過ぎて、少し気持ち悪い。
しばらくは甘いものはいいや……。
それに、雨は結局降らなかった。
入道雲は無くなっていて、空は青一色だ。
さっき食べた生クリームが、入道雲だったかもしれない……なーんてな。
ゴロゴロ。
俺の腹が、今度は胃の調子が悪いと訴えてくる。
主張が激しい腹だぜ……。
腹を黙らせるため、近くの薬局へ向かった。
空に塗り潰されたミッドナイトブルー。
見ているだけで、身体ごと吸い込まれていきそうだ。
空を飛んで帰りてぇ……。
俺は残業で終電を逃し、徒歩で家まで帰っていた。
深夜の道を歩いていると、気分が下がるし何かが出てきそうだから、夜空を見て気分を明るくする。
星達が夜空に散らばっていて、小さいけど力強く輝いていた。
俺も職場で星のように輝きたいし、出世したい。
だが、いまだに輝けずに上司や取引先にペコペコと頭を下げている。
いつになったら出世出来ることやら……。
そんなことを考えていたら、だんだんと気持ちがブルーになってきた。
もっと前向きに考えて──。
「ヴッ!」
全身に、痛みが走る。
空を見ながら歩いていたから、電柱に気づかず、ぶつかってしまった。
少しふらつき、後退りしてしまう。
……やっぱり、前を見て歩いたほうがよさそうだ。
電柱にぶつかった時に頭から出てきた星を掴み、大きく振りかぶって夜空に投げた。
木々から太陽の光が差し込んでいる遊歩道。
まるで光のカーテンのようで、すごく神秘的だ。
「どうしたの?急に立ち止まって」
一緒に歩いていた妻が、横から俺の顔を覗き込む。
先週、俺達は結婚式を挙げたばかり。
結婚して、妻と一緒に住み始めてから、全てが新鮮に感じた。
「太陽の光が綺麗だなぁ……って」
「ふふ、そんなこと言うなんて珍しいね」
「結婚して幸せだからだろうな。こうして二人で歩いてると、いつもの道が違って見えるよ」
「もう……会社に遅刻するから早くいこっ」
妻は逃げるように光のカーテンをくぐっていく。
「おーい!待ってくれよー!」
離れていく妻を急いで追いかける。
俺も光のカーテンをくぐり、君と飛び立つ。
今日という、新しい道へ……。
夕陽の光でオレンジ色に染まっていく世界。
その世界を、私は教室の窓から見ていた。
オレンジの世界に、二つの影がくっ付きながら伸びている。
影の持ち主は、同じクラスの川田君と阪井さん。
楽しそうに手を繋ぎながら歩いていて、すごくラブラブだ。
私は、川田君のことが好きだった。
「俺、好きな人がいるから。気持ちに答えられなくてごめんな」
この前、思い切って告白したけど、見事にフラれてしまう。
川田君の好きな人って、阪井さんだったんだ……。
フラれて辛い気持ちだけど、相手が阪井さんで納得する。
阪井さん、可愛いもんなぁ……。
私は、きっと忘れない。
川田君を好きになったこと。
川田君にフラれて辛い気持ちになったこと。
「私の告白を断ったんだから、ちゃんと幸せになってね」
私は、オレンジ色の世界を歩く二人の姿を窓から見送った。