英語の授業が終わり、騒がしくなる教室。
"True Love"
さっき英語の先生から学んだ英単語。
意味は、真実の愛。
「皆も、高校生活三年間で見つけられるといいですね」
英語の先生がそんなことを言うから、女子達が集まって盛り上がっている。
女子って、どうしてそんなに恋愛話が好きなんだろう?
まぁ、俺には関係ないことだ。
「女の子達を見てなにぼーっとしてるのよ」
話しかけてきたのは、同じクラスで幼馴染みの侑子。
「いや、恋愛話で盛り上がってるなーって思ってさ」
「へぇー……あんた、恋愛に興味あるんだ」
侑子は両手を後ろにして、モジモジしながら言った。
「なにモジモジしてるんだよ侑子。あの日か?」
「そんな訳ないでしょ!このバカ!」
侑子は怒って自分の席へ戻っていった。
「なに怒ってるんだよあいつ」
まっ、いっか。
しばらくすれば機嫌は戻るだろう。
真実の愛……ね。
多分、俺には、いや、俺達にはまだ早い気がする。
……やっぱり、次の授業が終わったら侑子に謝っておくか。
あれこれ考えていると、次の授業の始まりを告げるチャイムが、教室内に響き渡った。
大勢の人が行き交う休日の交差点。
横断歩道の信号が、赤から青に変わる。
「もう会うことはないと思うから、バイバイ」
彼女は人混みに交じりながら横断歩道を渡っていく。
俺は彼女の姿が見えなくなるまで、見ていた。
「好きな人が出来たから別れてほしいの」
ある日、彼女から言われた突然の別れ話。
言われた時は頭の中が真っ白になったが、すぐに我に返る。
「……分かった。君がそうしたいなら」
俺は別れることをオッケーした。
普通なら、反対したり、止めたりすると思う。
だけど、俺は彼女には幸せになってほしいから、他の男と付き合って幸せになれるなら、それでいいと思った。
もし、上手くいかなくなったら、「やっぱりあなたじゃないとだめ」と言って、彼女は俺の元へ戻ってくるはずだ。
だからさよならは言わない、またいつか……。
十年後。
結局、彼女は戻ってこなかった。
俺はあれからずっと独り身だ。
やっぱり、俺は彼女のことが一番好きだったから、他の女とは付き合う気になれなかったんだと思う。
大勢の人が行き交う休日の交差点。
彼女と別れた場所であり、彼女を最後に見た場所。
横断歩道の信号が赤から青に変わる。
俺は人混みに交じりながら、横断歩道を渡っていく。
「あれ?」
前から、見覚えのある女性が歩いてくる。
あれは……彼女だ。間違いない。
彼女の左側には背が高い男性、右側には小さい子供と手を繋いでいた。
絵に描いたような、幸せそうな家族。
彼女は俺とすれ違うが、見向きもせず、そのまま歩いていく。
俺は立ち止まり、振り返って、彼女の後ろ姿をぼーっと見ていた。
横断歩道の信号が赤になっても、車にクラクションを鳴らされても、ずっと……見ていた。
"またいつか"は、もうない。
夜空に散らばっている星達。
夏の夜空は、星が多く見える。
しばらく見ていると、流れ星が空を駆けた。
目で星を追いかけるが、すぐに消えてしまう。
もう少しゆっくり駆けてくれたらいいのに。
そうすれば、願い事も出来るし、観察することも出来る。
再び流れ星が駆けるのを待つが、なかなか現れない。
暑いし、そろそろ部屋に戻ろうかな……。
と考えていると、流れ星が空を駆けていった。
……また願い事が出来なかったじゃないか。
どうやら、流れ星との追いかけっこはまだまだ続きそうだ。
頬を両手で軽く叩き、気合いを入れて再び流れ星が駆けるのを待った。
結局、このあと流れ星が駆けなかったのは言うまでもない。
青くて、どこまでも広がる朝の海。
浜辺に何度も打ち寄せる波を音を聞きながら、海を見ていた。
俺は人生に行き詰まったら、こうして海からパワーを貰っている。
学校でいじめられて、どうしようか悩んだ時。
仕事でうまくいかず、転職するべきか悩んだ時。
彼女に浮気しているのを目撃して、別れるか悩んだ時。
親が急病で亡くなって、心が空っぽになった時。
色んな時に、海を見て癒され、パワーを貰った。
人生は予想出来ない沢山のイベントが起きる。
まさに、波乱万丈だ。
でも、それらを乗り越えてきたから、俺はここに居て、今を生きている。
一瞬、風が強く吹く。
波が大きくなり、浜辺に大きい音を立てながら打ち寄せる。
まるで、俺を元気づけるかのように。
今日も頑張ろう、生きようと、俺は思った。
物が散乱している埃っぽい家の倉庫。
少しは整理しよう思い、箱や段ボールを一旦外へ出していく。
途中で、見覚えのある箱を見つけた。
子供の頃によく使っていたおもちゃ箱だ。
開けると、綺麗な状態でおもちゃ達は眠っていた。
おもちゃ達の一番上に、小さい飛行機が置かれている。
昔、駄菓子屋で買って、よく遊んだ発泡スチロールの飛行機。
確か……ソフトグライダーって名前だったっけ。
結構派手なデザインで、実際にこんな飛行機が飛んでいたらすごく目立つだろう。
飛行機を手に取り、倉庫から出る。
今日は雲一つない青空で、絶好の飛行日和だ。
空に向けて、飛行機を飛ばした。
「飛べ!」
飛行機は勢いよく空に向かって飛ぶが、すぐに落ちてしまう。
あれ?昔はもっと飛んだんだが……。
それから何度も何度も飛行機を飛ばし、気がつくと一時間経っていた。
倉庫の整理は……今度でいいか。
昔遊んだおもちゃは、今遊んでも時間を忘れるぐらい楽しかった。