大勢の人が行き交う休日の交差点。
横断歩道の信号が、赤から青に変わる。
「もう会うことはないと思うから、バイバイ」
彼女は人混みに交じりながら横断歩道を渡っていく。
俺は彼女の姿が見えなくなるまで、見ていた。
「好きな人が出来たから別れてほしいの」
ある日、彼女から言われた突然の別れ話。
言われた時は頭の中が真っ白になったが、すぐに我に返る。
「……分かった。君がそうしたいなら」
俺は別れることをオッケーした。
普通なら、反対したり、止めたりすると思う。
だけど、俺は彼女には幸せになってほしいから、他の男と付き合って幸せになれるなら、それでいいと思った。
もし、上手くいかなくなったら、「やっぱりあなたじゃないとだめ」と言って、彼女は俺の元へ戻ってくるはずだ。
だからさよならは言わない、またいつか……。
十年後。
結局、彼女は戻ってこなかった。
俺はあれからずっと独り身だ。
やっぱり、俺は彼女のことが一番好きだったから、他の女とは付き合う気になれなかったんだと思う。
大勢の人が行き交う休日の交差点。
彼女と別れた場所であり、彼女を最後に見た場所。
横断歩道の信号が赤から青に変わる。
俺は人混みに交じりながら、横断歩道を渡っていく。
「あれ?」
前から、見覚えのある女性が歩いてくる。
あれは……彼女だ。間違いない。
彼女の左側には背が高い男性、右側には小さい子供と手を繋いでいた。
絵に描いたような、幸せそうな家族。
彼女は俺とすれ違うが、見向きもせず、そのまま歩いていく。
俺は立ち止まり、振り返って、彼女の後ろ姿をぼーっと見ていた。
横断歩道の信号が赤になっても、車にクラクションを鳴らされても、ずっと……見ていた。
"またいつか"は、もうない。
7/22/2025, 10:30:33 PM