多くの人が空を見上げている河川敷の花火会場。
もしも君が退院したら、またここへ来ようと約束していたのに、君は遠くへ……行ってしまった。
ドーン!と大きい音を鳴らしながら、花火が打ち上がる。
夜空に、大きな光の花が咲く。
花火はこんなに綺麗なのに、心から感動出来ない。
やっぱり、君と一緒に見たかったよ……。
俺の気も知らず、次々と打ち上がっていく花火。
俺は、ただぼーっと花火を見ることしか出来なかった。
色んな音が混じり合う賑やかな都会。
どんなに周りで音がしていても、君の口から出る感情を乗せた言葉だけは聴き取れる。
だって、それは君だけのメロディだから。
「どうしたの?私のことじーっと見て」
「いや……別に、なんでもないさ」
「えー、気になるー」
今日も彼女は、色んな言葉のメロディを奏でていた。
人で埋め尽くされたライブ会場。
全員、私の単独ライブを見に来てくれたファン達だ。
現在全国ツアーの真っ最中で、今日は大阪に来ていた。
数年前の私が、今の私を見たら、きっとすごく驚くだろう。
全国ツアーが出来るほど、私は成長したから。
私はステージの真ん中に立ち、マイクでファン達に呼び掛ける。
「皆ぁーーー!私に好きなもの教えてくれるーーー?」
私の呼び掛けに、ファン達は「いいよーーー!」と答えた。
「じゃあ私がI love?って聞くから、そのあとに続いて好きなもの言ってね!いくよ!I love?」
「たこ焼きーーー!」
「551の肉まんーーー!」
「阪神ーーー!」
「串かつーーー!」
「通天閣ーーー!」
ファン達は、各々好きなものを叫んでいる。
「なんでやねんっ!私の名前を言ってよーーー!」
私がそう言うと、ファン達は笑い、会場が湧く。
これはライブでいつもやるコールアンドレスポンス。
今日は大阪でライブをしているから、ファン達は大阪にある物を言ってくれたみたい。
「皆、大阪バージョンで答えてくれてありがとう!それじゃ次の曲いくよーー!」
私はマイクをぎゅっと握り、ファン達に感謝を込めて歌った。
どんよりとした空から大量に落ちてくる雨粒達。
確か今日は傘を持ってきたはずなのに、私の傘がどこにもない。
多分、あの子達がどこかに隠したか、持っていったのだろう。
なぜか私だけをいじめてくる同じクラスのあの子達。
頑張って笑って誤魔化してるけど、そろそろ限界かもしれない。
今日は雨でよかった。
皆が傘をさして帰ってる中を、私は雨に打たれながら歩く。
雨粒達が私の負の感情と涙を洗い流してくれる。
ずぶ濡れで帰ったら、お母さんに怒られるだろうなぁ……。
傘無くしたし、ほんと、いいことがない。
「寺田さん、風邪ひくよ?」
誰かが、私を傘の中に入れてくれた。
横を見ると、同じクラスの田中さんが、心配そうな顔で私を見ている。
「で、でも私……」
こんな所をあの子達に見られたら、田中さんもいじめられるかもしれない。
傘から出ようとしたら、田中さんも一緒についてくる。
「気にしないで。私が勝手にやってることだから。それに、寺田さんのことが気になってたから」
優しい声で私を心配してくれる田中さん。
さっきの涙とは別の涙が出そうだ。
「ありがとう……田中さん」
「うんっ、一緒に帰ろっ」
私は雨音と優しさに包まれながら、田中さんと一緒に帰った。
太陽が元気過ぎる快晴の空。
そんな太陽の下で、俺は歴史的瞬間を目の当たりにしようとしている。
突然強風が吹き、前から歩いてきた若い女性のロングスカートが……大きく捲れていく。
スカートは膝を越え、太ももが露になる。
なんて美しい足なんだ……。
スカートの捲れ方といい、もし今スケッチブックと鉛筆を持っていたら、きっと素晴らしい絵が描けただろう。
スカートは太ももを越え、ピンクの──。
「しゃがみながらどこ見てるのよ!このスケベ変態野郎!」
女性は持っていた鞄をバットのように振り、俺の顔面に直撃した。
俺は地面に倒れ、女性はスカートをひらひらと揺らしながら去っていく。
もう少しで、歴史的瞬間を目の当たり出来たのに。
倒れながら空を見ると、太陽が俺を見て、ギラギラと笑っていた。