お題《君と見上げる月》
深海の海から見上げた月
あんなに遠い月を
どうして人は 求めてしまうのだろう
人類が月にたどり着けた など
遠い遠い先のおとぎ話
夢幻の花を求めるような
遠い遠い夢物語
夢をみなければ
誰も彼も悲しまない 苦しまない 夢をみない のに
どうして人は 途方もない夢を みるのだろう
傷つき 傷つけて 傷あとが増えていく
絶対なんてない世界なのに
バッドエンドなんて山のようにあるのに
やさしい世界じゃないのに
人は 夢をみてる
夢は 人をみる
深海の海から見上げた月
ぴかぴかに磨かれた月
鉱石図鑑に心奪われた あの日
こどもは夢をみた
月が ほしい
大人になったら
月が ほしい
物語のように あざやかな 約束もない
それでも 月は あざやかだ
どんな困難も 月が あれば 乗り越えていける
だって月は 願いを叶える 魔法の石だ
この世界の鬱蒼としたもの すべて 風に 吹き去る
君と見上げた月
君と夢みた月
どこにもない月を
夢みてる
お題《空白》欠けた少年、蝶の少女、罪、旅路の果て、神様
空白の空の花が大地を彩る
世界が死ぬたび 世界が嘆きに彩られるたび
神様は代わりを遣わした 「欠けた少年」
人はうわさをする
「ああ穢れの子」 「罪人」 「人じゃないアレは」
神様が決めたことに 神様がつくった命は
――逆らえない
少年は世界を巡り旅路をゆく
人に汚く罵られようと
人に石を投げられようと
人が少年を憎もうと
これは、神様が決めたこと
少年は祈り祈る
少年は人の穢れを器に引き受け
少年は心に善も悪もない
「欠けた少年」
神様の捨てたもの
神様から切り離されたもの
遠く遠く旅路をゆく蝶
旅路の果てへゆく蝶
感情も欠けた少年は
はじめて、心の水面に、波紋を描く
「わたしのこと――まだ、おぼえてる?」
蝶から少女へ
少女から蝶へ
美しいはねを持った、美しい蝶
少年の瞳は虚ろ
空っぽな月
「…………君は。ぼくを知ってるの?」
感情のない言葉
少女は答えない
少女は 少年は
応えない
空白の空の花が大地を彩る
どちらともなく手をかざす
欠けた少年はふとつぶやく
「……………………君だったんだね」
風花にのって遠くはこばれる
お題《ひとりきり》
静寂は沈黙だった
孤独は祈りだった
花がゆれる 世界がゆれる
星がながれる 涙がながれる
ふれたい ふれられない
幻想か 現実か
今まで見てきた あの人は
星のように微笑んだ あの人は
呼吸が凍りつく
声は音の葉を失う
祈れば祈るほど
願いは届かない 願いは遠ざかる
息が 重い
足が 足枷
これは罰
きっと 罰 が 下ったんだ
ほしいものなんて なかったのに
ほしいと おもってしまった
少女は力なく天を仰ぐ
こんなにも人は無力で 弱くて
どうしようもない
あの人がくれたものは 夜明け
美しい世界を知らなかった
美しい言葉を知らなかった
あの人がくれたものは 星空
真っ暗な世界で ランプを知った
真っ暗な世界で ぬくもりを知った
忘れよう と心に 呪いをかける
忘れる ことは 呪いをかけること
それでも それでも 呪いでいい
呪いなら 消えることはない
きっと 罰 が 下ったんだ
お題《仲間になれなくて》
声は声にならない 届かない 届かない
座敷牢にさしこむ光は ない
覚えたはずの うたも 忘れた
覚えたはずの ものがたりも 忘れた
見たはずの きれいなはなも
見たはずの きれいなとりも
みんな みんな ぜんぶ
どこにもいけない どこへもいけない
もどるばしょが どこにもない
まっててくれるひとも いない
だから ぜんぶ ぜんぶ わすれた
ひとにもなれなかった もうひとじゃない
なみだもながれない なみだひとつ もたない
いかりもよろこびもない なにも ない
夢をみた おおきな夢
ここからでて
とてもとても きれいなひとが
「むかえにきたよ。もう苦しいことも辛いこともない、ひとりじゃない、ずっと一緒だよ」
夜はつめたい 夜明けはあたたかいだろうか
きょうは とてもとても ながいながい よる
お題《雨と君》
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