お題《街の灯り》
「ようこそ死者が灯す街へ」
「死者が?」
昏い夜の底に彩れたその街に灯りはない。それでも夜を見透せるこの瞳のおかげで、困った事は一度たりともない。せいぜい悩みがあるとしたら、死者を呼び寄せてしまうくらいだろうか。
華美な装飾を好まない自分の纏うものは、旅路の途中で出会った《織姫》と呼ばれる少女だった。言の葉から織る、風から織る、水から織る――世界に存在するものなら、すべて可能であると。
――ねぇリュカ。僕にもできるかな?
俺は、さあなと心で返事し。それから独り言のように口にする。
「どうやって灯してるんですか、死者は」
「死者の、言の葉です。言の葉には、理なんて関係ないですから。言の葉には無限の力があるんですよ――それこそ禁忌すらも紐解いてしまう力が」
「…………」
《リュカは。リュカだけは、わたしを否定しないよね?》
俺が――終わらせる。
この滑稽な物語は、俺が始めたものだ。
俺が、いなければよかったんだ。
お題《七夕》
コンペイトウが散らばる紺碧の空に向かって伸びる竹は、願い事を織姫と彦星に届けようとしているのだろうか。
麦茶を飲みながら縁側で空想にふける。足元で戯れる猫をいなしながら、風に泳ぐ短冊を魚みたいだなと思わず笑ってしまう。
「兄ちゃん願い事なに書いたの? ぼくが彼女できるように書いてあげようか」
「兄ちゃんはモテるんです」
「ほんとに〜?」
台所からこっそりスイカをくすねてきた弟が差し出す、ルビー色に輝く果実を受け取る。
俺が願ったのは――もう、叶えられているけど。
でもいいんだ、それで。
お題《友だちの思い出》
日常を便箋に言の葉で綴る。
好きなもの、日常の風景、悩み。
たとえどんなに世の中が発展し流れていっても、一番幸せだった、記憶。
お題《星空》
星空屋さんの星屑灯《ほしくずとう》
夜を照らすためのランプ。星詠である青年が幾つもの夜空を渡りその時々の、季節の、星の力を集めてつくっているらしい。
星詠である青年の好物は星屑糖。
人魚姫の物語のような泡沫の味がしたりするとか。
お題《神様だけが知っている》
英雄たちの背負った“不条理”を。
英雄たちが歩みの中で、失くしていったものを。