お題《病室》
時の止まったこの部屋に淡い月明かりがさす。
静寂包む聖域で、透明な便箋に今までの陽だまりの記憶を書き記す。
いつかこの手紙を読む君へ。
ありったけの愛を籠めて。
「あの時――なんて言えばよかったのかなあ……?」
「生きてくれ」と告げられたあの日。
一緒に生きよう、とはじめての愛をくれたあの日。
君の未来を壊したくなかった。
君の未来を、守りたかった。
いつかわかってくれるだろうか?――ちがうね。はじめからきっと、わかってたね。
正解なんて、きっとはじめから存在しなかった。
お題《明日、もし晴れたら》
翡翠の海に氷を浮かべて、透き通った香りのミントで彩った、物語の続きを飲もう。
夏の陽ざしに負けないくらい、煌めく夢物語を。
雨が降ったら雨宿りして、晴れたら――駆けだそう。
私の夢を掴むために、真っ直ぐに。
お題《だから、一人でいたい。》
心の底には朝陽がささない。
誰の笑顔も幸福も毒となるばかりで。
嘲笑う真実。
愚かでも歪でも――生きている、生きていくんだ。
誰にも笑われない生き方など、遥か遠い夢のまた夢。
今はひとりきりこの道の果てをゆく。
いつかまた、ふたりきりの旅が明けていくまで。
この旅は続いてゆくんだろう。
お題《澄んだ瞳》
どんな悲劇もそこには、存在しない。
夜の果てさえも、人は必ず越えてゆける。
前を向こう。
その命で、やさしさを繋いでいこう。あなたのやさしさがいつか荒れ果てた場所でそっと、、花開くように、そう信じて。
お題《お祭り》
風の言の葉で歌う涼やかな旋律。
それが、人の子を呼ぶ。
カラカラ廻る朱い風車。
青い狐の青年と人の子である、小さな娘。
――拾わなければよかった。
今さら後悔するのはずるいのだとわかってても、もう遅い。憂鬱で悲壮ただよう青年に娘は、風車を指差し楽しげに言った。
「あかい風花きれいだねぇ」
「……風花は、そういう意味じゃないだろう」
「えー? 風に廻る花だよ。ほら」
カラカラ……。
「まあ、たしかに」
綺麗なものだけ集めた、祭り。あやかしも人の子も――結局は好きなのだ、美しく儚いものが。
迷わぬように、その小さな手を引いて、青年は果たしてこの娘が帰れるだろうかと見つめた刹那――目が合った。
「いいの。この夢が終わらないのなら、それでも。だってまだ、お兄ちゃんと一緒にいたいから」