椿灯夏

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8/2/2023, 1:00:03 PM

お題《病室》



時の止まったこの部屋に淡い月明かりがさす。



静寂包む聖域で、透明な便箋に今までの陽だまりの記憶を書き記す。




いつかこの手紙を読む君へ。



ありったけの愛を籠めて。





「あの時――なんて言えばよかったのかなあ……?」




「生きてくれ」と告げられたあの日。



一緒に生きよう、とはじめての愛をくれたあの日。






君の未来を壊したくなかった。


君の未来を、守りたかった。




いつかわかってくれるだろうか?――ちがうね。はじめからきっと、わかってたね。




正解なんて、きっとはじめから存在しなかった。



8/1/2023, 5:07:41 PM

お題《明日、もし晴れたら》






翡翠の海に氷を浮かべて、透き通った香りのミントで彩った、物語の続きを飲もう。



夏の陽ざしに負けないくらい、煌めく夢物語を。




雨が降ったら雨宿りして、晴れたら――駆けだそう。



私の夢を掴むために、真っ直ぐに。


7/31/2023, 4:13:27 PM

お題《だから、一人でいたい。》



心の底には朝陽がささない。


誰の笑顔も幸福も毒となるばかりで。




嘲笑う真実。



愚かでも歪でも――生きている、生きていくんだ。



誰にも笑われない生き方など、遥か遠い夢のまた夢。




今はひとりきりこの道の果てをゆく。



いつかまた、ふたりきりの旅が明けていくまで。



この旅は続いてゆくんだろう。

7/30/2023, 4:58:34 PM

お題《澄んだ瞳》





どんな悲劇もそこには、存在しない。



夜の果てさえも、人は必ず越えてゆける。





前を向こう。



その命で、やさしさを繋いでいこう。あなたのやさしさがいつか荒れ果てた場所でそっと、、花開くように、そう信じて。



7/28/2023, 5:19:53 PM

お題《お祭り》



風の言の葉で歌う涼やかな旋律。


それが、人の子を呼ぶ。



カラカラ廻る朱い風車。



青い狐の青年と人の子である、小さな娘。


――拾わなければよかった。


今さら後悔するのはずるいのだとわかってても、もう遅い。憂鬱で悲壮ただよう青年に娘は、風車を指差し楽しげに言った。



「あかい風花きれいだねぇ」

「……風花は、そういう意味じゃないだろう」

「えー? 風に廻る花だよ。ほら」




カラカラ……。



「まあ、たしかに」



綺麗なものだけ集めた、祭り。あやかしも人の子も――結局は好きなのだ、美しく儚いものが。


迷わぬように、その小さな手を引いて、青年は果たしてこの娘が帰れるだろうかと見つめた刹那――目が合った。





「いいの。この夢が終わらないのなら、それでも。だってまだ、お兄ちゃんと一緒にいたいから」




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