お題《失恋》
好きじゃなかった。
だから失恋じゃない、失ったわけじゃない。
それでも桜の花が散るように、零れてしまう。
あなたの声とよく合う、いちごみるくみたいな彼女の笑い声。
廊下は淡く色づいて。
教室の片隅で震える肩。
好きじゃ、なかった。
お題《梅雨》
窓の外を彩る深い青の紫陽花。
しとしと降る雨音。
気怠い身体。
起き上がる気力もなく、ベッドに身を沈める。
傍らに緑茶の湯気揺らぐ。
あと――時間したらごはんを作って、洗濯機を回して。
恋人がプレゼントしてくれた、レモンキャンデーをご褒美に食べよう。
お題「ごめんね」
隠し通せぬ嘘。
一度言の葉となった嘘は、解けて、失くなってはくれない。
「兄なんかいない方がいいよ」
友達と馬鹿笑いしながら通話で放った言葉。
この時知らなかったんだ。――扉の向こう側で、泣いていたあなたがいた事を。あの日、あの時。声なき声の涙に気づいてたなら、何か変わったんだろうか。
「ごめんね」と一言だけ書かれたメモ。
兄の部屋に向かった母の泣き叫ぶ悲鳴が、私に“罪人”という刃を突きつける。
壊れた母の壊れた叫び。
それを必死になだめる父。
――神様。私の一言はそんなに“悪”だったんでしょうか?
夢ならサメテ………。
お題《半袖》
晴れ渡る空。
向日葵畑の中手を引いてくれる彼。
そよ風で揺れる花の海。
おろしたての白いシャツの彼がまぶしくて、目を細める。
アイスクリームのキッチンカーの話をしたら向日葵に負けないくらい、輝く笑顔はじける夏の記憶。
ラムネ瓶の硝子玉のようだ。
お題《天国と地獄》
都市伝説《金色の蝶》ローエンより。
「極上の幸福に浸かれば浸かるほど、堕ちていくのは簡単です。人は賢者でもあり愚者なのですから。終焉は、いつも隣にあるのですよ」
夜を纏う男は、月灯りの夜に語る。
紅茶の水面が揺れるグラスとレモンツリーのチーズの焼き菓子。
心に触れる泡沫の蝶は、今宵もやさしい毒を零す。