6/27/2022, 12:01:40 PM
お題《ここではないどこかで》
空白の街から来たという不思議な青年はハットを深くかぶりなおし、うやうやしくお辞儀をした。
なぜだろう、どこか胡散臭い。まるで、嘘のカタマリのよう。
「ハジメマシテ。私はナイトメア。ナイルでもメアでも、お好きなように呼んでください。今なら特別にその権利さしあげます」
「べつにいりません。べつに、貴方の名前など聞いてません。私が知りたいのは“空白の街”のことです、どうしてそんな嘘が言えるのか教えてくださいませ」
「――ほう。つまり君は私が嘘をついていると?」
あくまでもとぼけるつもりなのか、すぐに真実を吐く様子はない。それが、よけいに気に食わない。
「空白の街は存在を奪われた街なのですよ? そんなところから来たなどと、絶対ありえない話ではないですか!」
強く言っても、青年の態度は、変わらない。
「私の存在は奪われた理由(わけ)ではありませんから。珍しい彩色の髪をしたあなたがほしいと思ったから、誘いにきたのですよ。
――ここ(うつつ)を捨てて、いきませんか? あなたを真実(ほんとう)に必要としてる場所へ」
それは、ひどく心をざわざわさせる誘いだった。
6/26/2022, 10:25:49 PM
お題《君と最後に会った日》
淡い色の花弁が小舟のように水面に浮かんでいる。
風が散らした春の夢。きっともう、咲くことはない。
――誰がそうした。
――そんなのわかりきってることだ。
自嘲気味に笑う。
ここで咲いて、ここで散った。
――それだけだ。
もうこの場所に春はこない。