#誰かしら?
「い、一体、どこの誰かしら?」
文化祭での女装喫茶
こんな格好……
絶対アイツにだけは見せられまいと
逃げていたはずなのに!
なんで、しらばくれたはずなのに
俺はコイツに腕を掴まれているんだ?
待て待て!そっちは……!!
#芽吹のとき
昨日までコートが必要だったのが嘘のように
暖かい日差しが窓辺に差し込む
日差しに誘われてベランダに出てみると
枝だけの姿に見慣れてしまった街路樹に
微かな芽吹を見つけた
(俺も……)
なんだか新しいことがしたくなり
まだ眠り続けているアイツを叩き起こしに
俺は口元に笑顔を浮かべながら
寝室に向かった
#あの日の温もり
忘れもしない
初めて会ったときに感じた
絶対的な服従感
頭の中では逃げなければと思いながらも
伸ばされた手に抗うことは
僕にはできなかった
これは……運命なんだと
雨に濡れて冷えていた身体は
温もりなんて優しい言葉じゃ
足りないほど
重ねられた熱を痛いほど感じた
#カラフル
ある日君は、僕が見たことのないものを嬉しそうに持ってきた。
それはカラフルで、固いリボンのようなものだった。
銀テープと呼ばれるものらしく、何やら日付やらメッセージが書かれていた。
ファンの子たちは取り合いになるほど欲しいものらしい。
いつか自分の名前が入ったものをくれてやると言って、握りしめたまま眠りについてしまった君。
こんなものになんの価値があるのかわからなかったが、僕も君の名前が入ったものだったら欲しいと思ってしまった。
君の名前がキラキラしていたら、きっと飽きずに見つめてしまうだろう。
#風に乗って
病室の窓から中庭を見下ろすと
君がベンチに座って俯いているのが見えた。
大方、僕にどんな顔をして会いに行くか迷っているところだろう。
きっとお節介な大人が僕のことを喋ったから。
僕は君が笑ったり怒ったり、屈託のない表情をみせるのが楽しみなのに。
ベット脇に置かれたチェストからノートを取り出してページを切り取ると、紙ヒコーキを折った。
窓を開け、春の香りを感じながら、僕は君に紙ヒコーキを飛ばした。
風に乗って、どうか僕の詩を君に届けてくれ。
そうすれば君はすぐに僕の元に走ってやってくるはずだ。