#もう二度と
もう二度と好きだと言いません
あなたが欲しいとか
独占したいとか言いません
だからお願い、捨てないで
あなたがいなかったら
僕は生きてはいけない
こういうところがうざったくて
嫌がっているのもわかってる
でも、それでもぼくは……
#曇り
入社してまず面倒だと思ったこと
それは、会社の喫煙ルームがビルの一階にあることだ
短い休憩時間に、いちいち下まで下りるなんて……
憂鬱だ
しかも入るには入館証が必要なんて
タバコ吸うのにセキュリティを高める必要が
どこにあるかのかって聞きたくなる
まぁ、つまり利用者は同じビルの人間ってことだ
そこで俺は気になる人物に出会った
歳は俺よりちょっと上くらい
ホットの缶コーヒーを片手に
慣れた手つきで紙タバコを吸う
フルオーダーかと思われる
サイズがぴったりのスーツに身を包んだ眼鏡姿
そんな、側から見たら仕事できます風なのに
缶コーヒーを口につけるたびに
眼鏡を曇らせているのは
ちょっと可愛いとか思ってしまう
たしか、コンビニにメガネの曇り止めとか
売ってたよな
アレ買ってきてどうぞって渡したら……
気持ち悪いか
いや、あわよくば飲みに誘って……
そんなことを考えながら
俺は今日も横目であの人を見つめながら
電子タバコに口をつけた
#bye bye
高校の卒業式
めでたい門出の日なはずなのに
外は冷たい雨が降っていた
また今度会おうな
そう言い残して
クラスメイトはまた一人
また一人と教室から去っていく
最後に二人きりになってしまった俺とお前
実は会話をしたことは数えるほどしかない
でも本当は……
俺は最後だと思い
勇気を振り絞って声をかけた
「じゃあな……」
俺が声をかけると、お前は驚いた顔で目を見開いた
「bye bye」
そう言って笑いかけて手を振ってくれたお前から
俺は逃げ出すように教室を駆け出した
また、とは言ってくれなかったから……
#手を繋いで
一駅近く歩くし
坂の下にあるスーパー
普段の仕事帰りなら行かないけど
今日から連休
散歩のついでに足を伸ばして
キミと行くことにした
初めて見る珍しい野菜や
塊のお肉なんかが売られていて
料理好きには堪らないスーパーなんだ
けれどキミは
一緒に中へ入って買い物をすることはない
少し離れた場所で
タバコを吸って待っているだけ
どうやら
ゆっくり見たいだろうって
気を遣ってくれているらしい
本当は一緒に……
ついつい想定以上の大荷物になってしまったが
キミは何も言わずに
颯爽とボクからエコバッグを奪った
長い坂道を登る間
疲れたフリをしてキミの洋服の裾を
指先で掴んでみる
本当は手を繋いで歩きたい
ボクの気持ちがつたわりますように……
#大好き
朝起きて
まず目が合って言われる
大好き
朝食を一緒に作って
いただきますのすぐ後に
大好き
私よりも先に家を出る
キミに言われる
大好き
私は一度も返したりしないのに
キミは私に
大好きだと言う
キミが出ていって閉ざされたドアに
私は一人で呟く
私も大好きだと
すると、キミは照れた様子でドアを開けてきた
初めて言ってくれたね、と……