#カラフル
ある日君は、僕が見たことのないものを嬉しそうに持ってきた。
それはカラフルで、固いリボンのようなものだった。
銀テープと呼ばれるものらしく、何やら日付やらメッセージが書かれていた。
ファンの子たちは取り合いになるほど欲しいものらしい。
いつか自分の名前が入ったものをくれてやると言って、握りしめたまま眠りについてしまった君。
こんなものになんの価値があるのかわからなかったが、僕も君の名前が入ったものだったら欲しいと思ってしまった。
君の名前がキラキラしていたら、きっと飽きずに見つめてしまうだろう。
#風に乗って
病室の窓から中庭を見下ろすと
君がベンチに座って俯いているのが見えた。
大方、僕にどんな顔をして会いに行くか迷っているところだろう。
きっとお節介な大人が僕のことを喋ったから。
僕は君が笑ったり怒ったり、屈託のない表情をみせるのが楽しみなのに。
ベット脇に置かれたチェストからノートを取り出してページを切り取ると、紙ヒコーキを折った。
窓を開け、春の香りを感じながら、僕は君に紙ヒコーキを飛ばした。
風に乗って、どうか僕の詩を君に届けてくれ。
そうすれば君はすぐに僕の元に走ってやってくるはずだ。
#刹那
目が合った刹那、運命だと悟った。
二人で駆け寄り、手を繋ぐよりも先に唇を重ねた。
僕はやっと出会えた喜びで涙を流した。
君が流した涙は不思議と甘く感じた。
何度も何度も啄むように掬い取った君の涙。
その意味を知るのは、もう少し先だった。
一行でもいいから今日の出来事を書いてみてと
病院の看護師さんから日記帳をもらった。
今日は雨だった。
今日は診察がお休みだった。
今日は……だった。
毎日同じことの繰り返しの日記は書いてもつまらなかった。
そこで、嘘の日記を書くことにした。
今日は昼休みにグラウンドでみんなとサッカーをした。
友達と一緒に帰って、明日遊ぶ約束をした。
遊園地に連れていってもらった。
『やってみたい』を毎日いっぱい書いた。
でも、そのうち生きる意味がわからなくなった。
みんなが普通にしていることを、僕は叶えられないと悟ったからだ。
誰かにこの気持ちをわかって欲しい。
僕は日記の代わりに詩を書き始めた。
生きたい。
会いたい。
好きになりたい。
色々な『したい』を詩にするうちに、僕は作詞家になった。
嘘つきの作詞家の出来上がりだ。
#善悪
僕の行いを善悪で分かつなら
間違いなく悪だろう
君の視線の先に誰がいるのか本当は知っていた。
知っていて、知らないふりをして奪った。
後悔していないと言えば嘘になる。
けど、残された時間を君と過ごすことが出来るなら、今だけ君を独占出来るなら…