「酸素」
「time performance」
久しぶりに呼び出されたので十字路に出かけたら、貧相なガキがギターを握って
「俺を死ぬまで最高のギタリストとして有名にしてくれ、死ぬまで完璧な天才として、死ぬまで完全な成功者として。
そしたら死んだ後は魂でも死体でもくれてやる」
と言うので商談成立。
奴に技巧と悪魔に売った用代理魂と途轍もない運を貸し出した。
道端で弾き始めて直ぐに観客が集まり、プロデューサーに拾われて気の合うバンドメンバー、条件の良いレコード会社、ツアーをやれば奇跡のような悪運で、ハリケーンが返って話題になり…
休暇中にカフェで可愛い女を見初めてそのままベガスで結婚、娘は3人全員健康、何事も問題なく…
『そろそろ刈り入れ時かな?』
と眺めていたら
奴の血筋はエルフだったのだ。
上手く騙されたもんだぜ。
end
「記憶の海」
柔らかい滑らかな…豆腐のようなそれに足首まで浸かっていた。
微笑みながら私は片足を引き抜き、そっと足下のそれを足指でまさぐった。
柔らかくて、温度が低くて、水よりは少し温かい。
そういう意味では海にも似てるかもしれないと思いながらくるくるとそれを掻き回してみた。ぬるぬるして、すべらかで、ちょっと何かのペットみたいだった。
「たくさんこのまま踏み潰しても良いんだけどな」
そう思いながら培養された貴方の脳の記憶の中を静かに歩いていった。
シナプスの森は記憶の海
貴方の人生の全て
「ラブソング」
昨日窓辺であぐらをかき
コーヒー豆を選り分けながら考えていたんだ
あなたの為の愛
あなたの為の愛
けれどもそれは
コーヒー豆を選り分けるように
あなたが焦げていても選んだだろうか?
あなたが取り返しもつかないくらい破損していても選んだだろうか?
YESと言ってもNOと言っても
けれどもそれは
あなたを飲み干す為
今日自販機の前で何を選ぶか迷っていた
コーヒー、紅茶、緑茶に水
どれを選んでも良いけれど
けれどもそれは
あなたを飲み干す為
本当は喉なんか乾いてないのかもしれない
あなたを選びたいのじゃないかもしれない
機械的に指は彷徨い
サークルを描いて
あなたの為の愛
あなたの為の愛
けれどもそれは
機械的に指は彷徨い
サークルを描いて
意図的な偶然を待っている
「なんでも好きなのを選べば良い、どれを選んだって同じだ」とビール腹の男が忠告する
あなたの為の愛
あなたの為の愛
けれどもそれは
誰の為でもないかもしれない
日の当たる場所で
ただ飢えていたい
機械的に指は彷徨い
サークルを描いて
意図的な偶然を待っている
正解なんて欲しくはない
正しさならその指を引っ込めてくれ
機械的に指は彷徨い
サークルを描いて
意図的な偶然を待っている
「ラブソング」
<LINE画面>
新人「ねむいです。」
部長「ゴールデンウィークに深夜アニメ観てたんだろう。明日からキツいぞ、早よ寝なさい。」
新人「今からお布団入ると上手くするとジークアクス始まる頃に目が覚めたり…」
部長「寝ろ!」
新人「リベンジ不眠なので[やったぞ感]が満たされないと眠れないんですよ…」
部長「お前はいつでも好きなことしかしてないだろ」
新人「ゲージが…ゲージが満たされない…」
部長「満タンになると必殺技が出るのか」
新人「ピーガガガ…
<ザッピングが始まる>
<隣宇宙、smile markのアパート、相変わらず宇宙猫Kはテレビに向かってSwitchをやっている>
K「近所のご婦人に情報を頂いて都市伝説センター始めたんですよね」
smile mark「人気なんだってね。どこまで進んだの。」
K「冒頭でおかっぱの可愛い女の子が押しかけてきてセンター長の部屋でファイルを探し始める所ですかね」
smile mark「もしかして全然進んでないんじゃない?」
K「一年Switchやっといてなんですが、ボクゲーム苦手かもしれません。」
smile mark「ゲームが好きか嫌いかわかるのに一年かけたんだ」
K「もしかしたら自分の中に隠れたツボがあるかと思って。あと何より、
テレビ画面観てないと自然、smile markと顔を合わせることになるので。」
smile mark「もしかしておれのことも」
K「苦手ではないですが自分の中のどこにツボが隠れてるのかわからないなと思って」
新人「そういう時は二人でジークアクス観たら良いですよ。」
<時空の歪みから無理やり現れたパジャマ姿の新人が無理やりDVDデッキのリモコンを操作してジークアクスの録画予約をして去っていく、口遊むのはplasmaとびだーしてゆけーうちゅうのかなーたーラブソングではないし宇宙猫と同居人の間には愛も友情も草木も生えない>
「手紙を開くと」
ポストに入っていた封筒をペーパーナイフで切るとそこには何も入っていなかった。
指を2本入れ、距離を測るようにして開いて中身を探ってみたが、やはり何も入っていなかった。
それで、貴方が今も昔と変わりない生き方をしているのだと、納得したのだった。
口を開けた封筒の裏側はだらし無く開けた口のように赤い裏地で伸びている。
その舌を伸ばした口のままに屑籠に投げた。
私もまた変わり無いのだ。
その様にして、生きてきた。
了