ゆいに

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4/25/2025, 5:53:05 AM

「巡り合い」

新人「宇宙、なんかそんなキャッチコピーのアニメあった気がしますね!」

部長「そうか?思い出せねえ」

新人「そういう時こそAIに!」

AI「めぐりあい宇宙とは佐野元春が1999年の夏に行ったツアーのタイトルでその時に巡ったコンサートホールの数は実に99件になり…」

部長「な訳ねえだろ、ガンダム劇場版最終話のサブタイだよ!」

新人「やっぱり知ってるんじゃないですか素人ぶって!」

(次元の裂け目から例のsmile markとその仲間を招集してやおらめぐりあい宇宙の視聴会を始める新人他その他の面子である。石井は既に宅配ピザを頼む為に連中から昼ごはん代を徴収し始めている)

4/22/2025, 1:58:37 PM

「big love!」

「び、ビッグラブ…!」
黄が挙動不審でカタカタ動きながら両手を胸ポケットがある辺りで形作って見せる。目はテレビに向かってメガテンをプレイしているKの方に逸らして伏せられている。

逆に言うとハートはおれの方に向いているので、こんなに心のこもってないハートは初めて見るが、そもそも友人に向かってハート型を手で作ってみせる男友達はいた試しがない。いや、友達自体がいない。
全員が知り合いだから。

おれは昼食に出した素麺の後片付けをしながら「そうなんだ」と言ってそのままシンクに皿を持っていった。

「……K、リアクションがない時はどうするの?」

黄が振り返ってKに聞いている。

「基本、何事も探索ですね。」

それはゲームの進め方の話じゃないかな、とおれは思ったが、気にせず皿をじゃぶじゃぶざっくり洗ってオケというか棚というかに伏せた。

「おれは嗅ぎ回られるのはごめんだ。黄はもうウンザリするほどKからおれの情報を買ったろう。」

軽くタオルで手を拭いてそのままポンと置く。
黄がそっと振り返って言った。

「そ、そう…?Kには金は渡してないけど…」

「ソフト増えたよね」

「あ、それは、友達なので…」

黄のハート型が段々虚しく崩れて手が尻の後ろに隠れる。

「大体その、それはなんの催し物なの」

褒めて欲しい。
おれは「何の真似だ」とは言わなかった。
すんでの所で黄の立場も思い遣った。

「新人が…こうやると人脈が増えるんですよって、」

早々にメタ存在「新人」の名前を出して来やがった。

新人はスターシステムで隣の脚本に存在するトリックスター的なデクノボウのことだが、偶に次元の壁を突き破ってゲームの進捗を見物しにくる。

「人脈が増えるって言い方が新人らしいね。」
おれは何か言おうとしたがその前に深く首を左右に振っていた。

ハートで友達になるか。


「前から思ってたんだけど!」

黄が跳ね上がるように声を上げた。

「smile mark、おれにだけ当たりがキツくない?友達ってもっと気軽にお試し感覚でなって…も…いい…」

声が小さくなって消えた。
自分の発言にリアリティを感じることが出来なかったんだと思う。

おれはため息というか、深呼吸というか、深い息をした。


黄が何を求めているかは知っている。
無駄に勇気を使わせたのも悪いと言えば悪いような気もしなくもない。


「ただ、お前は何か勘違いをしてるぞ。」

おれはちゃぶ台の横に胡座をかいて藤の菓子皿からチョコレートを一欠片取った。

「な、何かな…」

チョコレートの包みをKの後ろ頭に投げると触手のようにKの腕が器用に背後に伸びてそのままチョコレートの包みを受け取った。宇宙猫を自認しているだけのことはある。なんとなく気味の悪い動作をする。


「おれは。」


「親父のことを、」


「恨んでないとは言わないが、今更ああだこうだと言って解決しないし、お前とベタベタと傷の舐め合いをする気はない。」


「あ、そこなんだ?」

黄の声が軽く跳ね上がった。

「そこが理由でおれに付き纏ってデータを集めてたんじゃないのか。」

黄はおれと同じベトナム出身でフランスと中国と日本の血を複雑に引いている。
他に接点が特にないのだ。
肌の色もそうだ、やや浅黒いというか、ココアを薄めたような黄褐色だ。
パッと見ると俺たちは何処から来たのかわからないような顔立ちや肌色をしている。

「君のことはその…気になっては居たけど、別に生まれで括っていたわけでは…」


「おれノンケだよ。」

別にそうだという確信はないが適当な嘘をついた。

「いやそういうのでもないんだけど、友達は多い方がいいかなって、」

どの口が言うんだ。友達の最初のハードルがおれで、最後まで越せてないだろう。

「大体何が理由でおれなの、」

菓子皿から掴んだチョコレートの袋を一つ黄の頭に投げた。

工場で器用にレンチを受け取る男が、瞼にチョコレートの包みをヒットさせて眩しそうに瞬きしていた。


「それはこれから考えるので…」


問い詰めるのも体力を使う。
黄はよくわからないところのある男だ。

4/21/2025, 2:38:02 PM

「ささやき」

株がアレしたショックで黄の社長がぶっ倒れた、という噂を風の便りにいうより黄経由で石井から聞いた。

石井は前に黄の地雷をナチュラルに踏んで聞きたくもなかった過去を内蔵のようにズルズル引き出してしまった手前、黄を弟の様に可愛がっている。

最早可愛がっているのか罪滅ぼしに気を遣っているのかは不明だが、石井が元来ピンで生きているような所があるので、黄を押し付けていると丁度バランスが取れているような所があって、周辺の人間が事あるごとに石井に黄を押し付けている。

まあそんなわけで社長のベンツの整備の為だけにコネで雇われている黄も社長共々風前の灯である。
社長自体はぶっ倒れつつも気丈夫に済々起き上がってはあちこちに連絡などつけて損切りに走ってはいるようである。

黄はどうしてるんだと石井に聞くと、まあ車をイジる以外に能のない奴なので、変わらず社長のベンツを整備しつつも、何か嫌な予感は感じて背後いるらしく近くの工場にパートタイムで入っている。

「あいつ腕はそこそこ良いだろう、パートなの?」

「正社員で入ると社長の方が留守になるからじゃねえの。一応恩があるし親戚だからな。」

「社長アレどうなるのかね?」

「いや株だけやってるわけでもないらしいから、今髪振り乱して切りまくってるよ。持ち直した部分もあるそうだし、一応あの人オカネモチだからね。」

「おれ最後あの人見た時アキバにメガテンのソフト買いに来てたんだよね。だから庶民的なイメージしかなくて。」

「あれでなかなかのお嬢様なんだそうな。名士の娘なんだけど、本人がネット漬けでそのまま暗号資産に手を出すようになって今に至るらしい」

「それ黄情報?石井仲良すぎない?ほぼほぼ弟扱い?」

「いや、ここいらの面子はそこそこ知ってる。お前が黄と仲良くないだけだから。」

『いったい何が気に入らなくてアイツにだけ余所余所しいよ。』

言われると言葉に詰まった。

黄の何が気に入らないというのはない。

ない筈だと思う。

つらつらとここ数年の出来事を思い出すに、最初におれに近づいて来た時、肌色だとか、国籍だとか、ハーフだからとか、どうでもいい情報を根掘り葉掘り聞いて来た上で、急に馴れ馴れしくしてきたのが…


「気に入らないんだ。」


おれの眉間に皺が寄っていたと思う。

石井は勝手にそこらにあったおれの急須で蓮茶を淹れてぐびぐび啜る。

「…わからんわけじゃないが、まあ見る目が厳しいな。」

「俺の見る目が厳しいように、黄の人を条件で数え上げて合格・不合格で値踏みするのも厳しいと思うよ」

「うわ手厳しいな。お前らやっぱり似てるよ。」
石井がドン引きしつつ言った。

石井の背後でKがテレビをつけてSwitchでメガテンをプレイしはじめた。おれの名前をプレイヤー名にしたヤツだ。もう一年になるがいまだにKについては許してない。

「黄は、アイツは誰にでも良い顔するだろ。似てないよ。」

石井が湯呑みをちゃぶ台に置いて胡座をかきなおす。

「いや、お前らなんとなく似てるよ。こう、向かい合ってるとな、なんとなくどう考えてもこれは一方通行だなって感じる。」

「黄が?おれが?」

「両方そうだから似てるっつってんだよ。アイツはね、」


少し苦笑して声のトーンを一段階落とした。


『お前と双方向になりたがってるんだよ。』


微かに笑う様に囁いた。

おれはそのままメガテンに目をやって石井の言葉を聞かないフリをした。

Kは相変わらずおれの名前を名乗ってプレイしている。不愉快だ。
然もいまだにクリアしてない。


2/19/2025, 10:08:33 AM

あなたは誰」


この質問に本名を名乗る人、ハンドルを名乗る人、職業、身分…などまあ色んなリアクションが想像出来ますが、結局のところ『あなたは誰か?」の問いに問いに答えるにあたって、知人であれ、知らない人であれ、

「俺だよおれ、」

と答えるのが人間としては一番イケてるんじゃないかと思いますね。

「あなたは誰か?」

「おれはおれだ。」

ここまで言えるようになったらもう卒業しても構いません。

ただ、『人間』は『卒業』しないように。
あれは終身雇用です。

1/23/2025, 8:13:52 AM

あなたへの贈り物

初代の猫が軽く噛んで〆た巨大ムカデをそっとスニーカーの底に忍ばせておいてくれていたことがあります。

いやあ、生まれて初めて腰を抜かしましたが、腰って抜けるんですね。

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