今を生きる
「なんかありましたね。何でしたっけ?映画のタイトルかなんかですか?」
「ポピュラーすぎて俺も思い出せん。ちょっとググってきてくれ」
「ヒューマン名画ですね。私観たことありません。ロビンウィリアムスが鬼門でして、まあ今年初めてグッドウィルハンティング観たとか、あと奇蹟の輝きと…今年見たのが最後の出演作、あれはしょっぱくてなかなか良かったですけどね。」
「嫌いな割に語るなあ」
「映画研究会ですから」
「ロビンウィリアムスそんなマズいか?」
「顔の圧がリアクションを強制してくるところが我慢ならないですね」
(部長、思いの外大きなリアクションで頭を抱えて無言で必死に笑いを堪えている)
(ヒーヒーと苦しい息の下から台詞を絞り出す)
「……いわゆる善人面問題か!でもお前、アレがデフォルト顔だったらロビンウィリアムスが気の毒でしょうがねえだろ」
「フィクションなんですから人権だろうが好き嫌いだろうが関係ないですよ。顔を見た瞬間にしなきゃならないリアクションが決定してるんですよ寧ろソフトを選ぶ時点、映画館に入る時点でどうリアクションするべきかが決定してるんです」
(部長更に無言でウケて腹を抱え、既に声を出して大笑い)
「……ま、まあアレだよな、確かにロビンウィリアムスを逆張り使おうって映画は最後の作品くらいなのかもしれん。基本はお茶の間顔だな。」
「教室顔です」
「……うむ……うむ……わかった、今度俺とホラー映画でも観に行くか」
「汚いゾンビは無しでお願いします」
(なんらオチもなくいつもの部活が平凡に終わる。然し部長と新人の財布の中にはシネコンの割引き券がしこたま入っている)
了
飛べ
「居ましたよね!卜部粂子!」
「すまん、さすがにもう記憶にねえや!笑」
「基本、お婆さんです。お婆さんとしてそこにある。それが卜部粂子」
(突然藪の中から立ち上がり割って入る歴史の教師、好物はセブンイレブンのカスクート)
「まったくの間違いとも言わないが、基本卜部は亀の甲占いとかをする専門職の一族の氏族名だ。あと、教科書は使い終わっても捨てるなよ。」
(瞬く間に藪に消えた歴史教師を前に唖然とした新人、一言)
「部長…水屋に歌舞伎揚隠してるんで、お茶にしましょうか。」
「お前んちはどんど揚げじゃないんだな」
了
special day
「ぱー…「パーフェクトじゃなくてスペシャルな」
「はあ…スペシャルって、なんか…ありますか?」
「ないのかお前」
「今時餅もケーキもコンビニで買えますし。季節感と言ってもこの温暖化では何が季節なのやら。」
「お前のスケジュール帳とかカレンダーに赤丸つけてる日だよ」
「レンタルサーバーの契約終了日ですか?」
「うーん惜しい!もう一声!」
「誕生日はソラで言えますし、特に予定は入ってません」
「ダメなヤツなんだか思いっきり自由なのかよくわからんな。せめて健康診断とか」
「歯は丈夫です。」
「ピンポイントで自慢されても。なんかこう、特別!っての、なんかないのお前には?」
「うーん…nearな futureで言うなら、お盆休みに水際に近づくと高確率で死にますよ」
「おばあちゃんの知恵袋だ!」
(舞台袖からハスキー犬の仔犬がワサワサと5匹飛び出して吉本新喜劇のオチ音楽に合わせてクルクルと周りを走り出す、♪ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃっちゃらちゃっちゃ、ちゃっちゃらちゃっちゃ、ッチャっチャ!♪
奥から大旦那の悲鳴が聞こえるがそれは嫁のスミコを呼ぶ声であり、要はhelp!の意味である)
揺れる木陰
揺れる木陰できらめく陽射しは
風が吹いたか私が揺れたか
ハンモックがゆらゆら揺れるこの慣性は
私が動いたのか誰が揺さぶったのか
nannyそこでまだ見てるの
乳母日傘じゃあるまいし
(悟ったナニーが青い顔で振り返り、ゆっくりと仏壇へ還ってゆきますどうせお盆にはまた来るし)
真昼の夢
昔、夢を紡いでそれを食べて凌いでおる男がいました。
自給自足で、夢を紡いで、それを食べて1日をやり過ごす。
それを一生やり続けていて不満は無かったものを、隣に大きい通りが出来て、他所からきたものがああだこうだと冷やかします。
夢を食ってら!
ゆめだゆめ!
夢なんて食うのはどうしようもない人間さ!
夢しか手に入れられなかったんだろう!
なるほど彼らは誰かからふんだくった獲物の数々、死んだ兎や鹿の生首を誇らしげに槍の先に吊るしています。
罵声の数々が限りなく続いた所で、男は立ち上がり無言で彼等の1人に近づき、
バリバリと、
バリバリと、
バリバリと、
それでおしまい