私と貴方の間には
心理的にも身体的にも距離がある。
私が貴方の心に手を伸ばしてもその距離は
1ミリだって縮まらない。
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距離
「お願いっ…!死なないでっ…!私を残して逝かないでっ…!!」
顔から出る全ての体液を流しながら必死に僕に縋り付く彼女。
そんな顔は見たくなかったな。
「泣かないでよ…」
もう助からない。それは僕も、そして彼女自身も分かっていた。
「君は…幸せに、なるんだ…。だか、ら、僕のことで…泣かないで…」
重い腕を必死に持ち上げて彼女の頭を優しく撫でる。
「っっ!!そんなのっ!貴方がいなきゃっ!私は幸せになんて…!」
寒い。眠い。
「ごめん、ね」
そして全身から力が抜けた。
「うぁぁぁぁぁぁぁっっっっーーーーーー!!!!」
最後に聞いたのは、彼女の叫び声だった。
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泣かないで
某チョコレートのCMがテレビから流れてきた。
あぁ、冬の始まりか、と毎年思う。
お願い
この恋を終わらせないで。
どうしてもこの願いが叶わないのならば、
せめて
この
"身体だけ"の関係だけでも
終わらせないで
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終わらせないで
夫と結婚して早四年。
子宝に恵まれずにいた私たちに希望の光が差し込んだ。
そう、待望の第一子を身籠ったのだ。
夫婦2人、色々な準備をした。両親、義両親も皆産まれてくる子を楽しみにしていた。
でも。
ある時の検診の時に産婦人科医は重苦しい声で驚愕の言葉を口にした。
「お子さんは…重度の障害がある可能性があります」
時が止まった。
どれほどの時間沈黙が流れたのだろう。産婦人科医は保健所の連絡先を私たちに渡し診察は終わった。
帰り道。夫と色々と話し合った。
自宅に帰るとすぐにお互いの両親に先ほどのことを伝えた。
そして、出した答え。
それはーーーーーー
••••
「ほにゃあほにゃあ!!」
元気な泣き声が分娩室に響き渡る。元気な男の子だ。
夫は泣きすぎて顔がぐちゃぐちゃだし両親や義両親はお互い手を取り合いながらピョンピョンと跳ねて看護師に注意を受けている。
そう。産むことにしたのだ。
何度も何度も話し合いを重ねた。泣きながら話した日もあった。
それでも。
それでもやはり私たちは腹の中にいるこの子を諦めることができなかった。
「絶対、幸せにしようね」
私がそういうとぐしゃぐしゃの顔の夫が何回も首を縦に振った。
待望のばぁば、じぃじになった両親たちもうんうんと頷いている。
測りきれない愛情をこの子に注ごう。
みんなで一緒に。
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愛情