夜桜美桜

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11/3/2024, 12:24:32 PM

「最近、笑えていないなぁ…」

職場から自宅に戻りある程度片付けてから風呂に入る。
一通り頭や体を洗い終わると湯船に浸かった。
今日のお供の入浴剤はリラックス効果があると有名なラベンダーの香りのするものだ。
その他、疲労回復・肩こり・むくみにも効くらしい。

湯船に浸かりながら先程吐き出した言葉をもう一度ボソリと誰に言うわけでもなく言った。

「…笑えてないなぁ…」

周りの友達のほとんどが結婚、出産をしている中、自分だけ会社の駒で。
相変わらず脂ぎったてっぺんハゲの上司からは怒鳴られるしお局様的な社員にはくどくどくどくど小言を言われる。

学生時代は、もっと笑えてたのに。

就職したては大きな希望と夢を持ってたのに。

「あー!!でも、それが現実かぁ!!」

ヤケになって風呂場で叫ぶ。
大人になると言うことはこんなにも楽しくないことだったのか。

「もー、この歳になると夢も希望も無いっつーの!」

そう言って、一息ついた。
風呂に入り始めて45分位は経っただろうか。だんだんとのぼせてきた感覚が出始める。

湯船から上がり栓を抜く。
お湯がどんどん流されて湯船からただの浴槽へと変わっていく。

「…私みたい」

時間だけが過ぎて、何者にもなれないまま最期を迎える。
なんて滑稽なんだろう。

キャミソールとパンツ、頭にはタオルを巻いて脱衣所をでる。
一目散に冷蔵庫へ向かい500ミリの缶チューハイを取り出してそのままゴクゴクと喉に流し込む。

「っかー!生き返るー」

そしてベットにダイブする。
スマホを手に取りSNSを起動する。
そこにはやはりフォローしている友達の幸せそうなメッセージや画像が貼ってあった。

「……」

格の違いのようなものを見せられた気がしてすぐにスマホの電源を切って枕元に置いた。
そのままグダグダしていると普段は全然気にしていない本棚が目に入った。

ベッドから降りて誘われるように本棚へ歩いていく。そして一冊の冊子を手に取った。

【○○高校3年4組卒業アルバム】

少し色褪せている卒業アルバム。
パラパラとめくっていくと自分の書いたページが出てきた。
思わず次のページに行くのをやめて読む。

当時の自分が書いた夢や希望、なりたいものはキラキラと輝いていてアルバムに物理的効果があるのなら目眩を起こしているかもしれない。

その中の"習慣にしているところ"という項目が目に入った。
高校生らしい丸文字でこう書いてあった。

{毎日、鏡を見て、鏡の中の世界にいる自分を見つめて笑っていってきますを言うこと}

鏡の中の世界。

そうだ。当時の自分は鏡に映った自分、そしてそれに応えるように鏡の中の世界からこちらをしっかり見てくれる自分と向き合っていた。
鏡に映っているのは自分なのだから、鏡を見ていれば同じ動作をするのは至極当然、当たり前の話だが高校生の頃の自分は反抗期真っ只中で周りに味方がいないと思っていたから、せめて鏡に映る自分は味方にしようと鏡の中に自分という味方がいる世界を作った。

登校前に鏡の中の自分に笑いながら「いってきます」を言ってなんなら「今日もラッキーな日になるといいな!」なんて言ったりして家を出ていた。

いつのまにかそんな事はしなくなったけれど。

アルバムを閉じて机の上に乗っていたハンドミラーを見つめる。
いつのまにか笑うことも忘れた自分とそれに呼応するように悲しみに染まったような自分が鏡の中にいた。

あぁ、そんな顔は見たくない。

もう一度やってみようか。
毎朝、鏡の中の世界の自分に行ってきますを言って家を出るのを。
最初は無理に笑えなくてもいいから。

「…うん。そうしよう」

ーーーーーー

「それじゃ、会社に行ってきます!私!」

やる気に満ちたキラキラとした瞳で鏡の中の自分に挨拶をする。
鏡の中の世界の私が行ってらっしゃいとでも言うようにキラキラとした瞳で見送ってくれた。


鏡の中の世界


11/2/2024, 9:26:45 PM

眠りにつく前に、ふとあなたのことを思い出す。
無邪気な笑い声、向日葵のような明るい笑顔まるで蝶が舞っているかのようにくるくると動く身体。

あぁ、好きだな。

自分があなたと同性ではなかったのならもしかしたら願いが。あなたと生きていくと願いが叶ったかもしれない。
自分の性を恥じているわけでも貶しているわけでも苛立っているわけでもない。
それでもやっぱり手が届きそうで届かない距離なのだ。
あなたはきっと人を好きになれば性別など関係ないと、いつもの向日葵のような笑顔で言うだろう。
それでも想いを告げることのできない意気地のない自分には向日葵のようなあなたは惹かれることはないだろう。
自分は太陽ではないのだから。

だから。

せめて、眠りにつく前だけはきっと叶うことのない幸せな夢を見れるようにと心の中でそっと願ってしまうのだ。