ないものねだり
わたしはひとりっ子だ
しかも鍵っ子で
母ひとり子ひとり
兄妹がいたらいいなと
幾度となく夢想した
母は母の姉と仲が良く
おばちゃんになっても
なんなら
おばあちゃんになっても
まめに電話している
時々口げんかっぽくなっているので
仲がいいとは違うのかもしれないけれど
でもまたすぐ電話するのだ
いいなと思う
いまさら
兄も姉も弟も妹も父親も
現れたりしたら
面倒くさいことこのうえないだろうが
でもちょっと
いいなと思う
好きじゃないのに
小さい頃
生ガキが好きじゃなかった
なんか海くさいし
ぶにょっとしてるし
味つけすっぱいし
でも
お母さんが好きで
季節にはよく作って
食べていたから
わたしもおいしいねって
一緒に食べていた
実は大人になっても
生っぽいカキは苦手のままで
身が縮むくらい
加熱されてるほうがいい
だけどあの頃のわたしは
ぶにょっとしてても
すっぱくても
大好きなお母さんと
一緒のそれを
食べたかった
ところにより雨
車移動がメインになってから
傘を持ち歩かなくなった
車には積んである
もちろん家にも傘はある
予報はところにより雨
ところによりのところって
どこだろう
雨が降る前の湿った空気
雨に濡れた土の匂い
晴れているのに降る雨
雨雲と晴れ間がせめぎ合う空
降ったり止んだり
晴れたり曇ったり
ここは晴れてるのに
あそこは雨降り
っていう感じの
境目のことだろうか
まぁ車なので
ちよっと走ればいいかなと
今日も傘は置いていこう
バカみたい
あーやっちゃった
だくだくと流れるしょうゆ
早く倒した容器をもどさなきゃ
近ごろこんなことが増えている
まちがえて詰めたシャンプー
録りそこねたドラマ
うまくきまらない前髪
おでこにできたニキビ
目の下に居座るクマ
仕事中も言わずもがな
集中できてるわけがない
バカみたい
気にし過ぎだとはわかってる
くよくよしたってしかたない
繰り返さない対策をたてればいい
笑い飛ばして
明日がんばるって
言えばいい
だけど
わかっていても
できない夜が多すぎる
二人ぼっち
めまぐるしく
すぎる季節を
共に越えてきた
騒がしいけど安心できて
慌ただしいけど充実してて
やることいっぱいだけど幸せで
大変なこと
いろいろあったけれど
わたしたちすごく
がんばった
立派に巣立った
姿を見て
うれしいのに寂しい
誇らしいのにむなしい
静けさがとても悲しい
だから
もっとふたりで
どこかへ行こう
新しいことやってみよう
見たことない景色を見て
美味しいものを食べよう
そして
楽しかったことを
巣立った彼らとも共有しよう
ねえ
二人ぼっち
もう寂しくないよ