#82 モンシロチョウ
季節外れの暑さが
やっと落ち着いた夕暮れ
色褪せた菜の花畑で
白い春のなごりが
弱々しく
でも妖しく
闇に舞っている。
お題「モンシロチョウ」
#81 人生ビール
忘れてしまいたい苦い記憶を
忘れてしまったことにしたくて
とりあえず瓶詰にしていたが
とうとう部屋が瓶で埋まってしまった
これでは、忘れたいのに忘れられない
瓶だらけの部屋で途方に暮れた
中身が入っていては町のごみ収集に出すこともできない
産業廃棄物としてなら処理できるのだろうか???
と悩む毎日
ある満月の夜
結局、忘れられないものなのだ
いつまでも。
....と諦めのような
割り切りのような
開き直りのような
ともかく、
そういう記憶とも共にあることを決め
栓抜きで瓶をかたっぱしからあけはじめた。
瓶の中身がシュワシュワとあふれだし
月夜に溶けはじめる。
長い間、瓶詰にされていた大半の忘れてしまいたい記憶は
すでに時間に溶かされ、ただの炭酸水になっていたけれど
溶け切らなかった多少の記憶が苦く濁りながら胸の中にしまわれた
これも時間とともになくなっていくかもしれないし
そうではないかもしれないし....
でも、もうどちらでもいいことだ
これからは人生の苦味もビールのように
味わって飲み干していくのだから_
お題「忘れられない、いつまでも。」
【別れのアイスコーヒー】
凍った星をグラスに。
アイスコーヒーを淹れた
あの星祭で一緒に拾った星々
アイスコーヒーの闇の中で
星は溶けながら輝きをとりもどし
グラスの中にあの夜空がもどった。
あの夜を思い出したら
今から彼が言おうとしている
「さよなら」はなかったことに
なるかもしれない
独りよがりの期待にかけた
おまじない。
でも、彼は、
ためらうことなくミルクを注ぎ
グラスの中の夜空を祓うと
静かに別れを話し始めた。
....
うつむいてあてもなくグラスをかき混ぜながら
私は考えている
いつからこんなにも
すれ違ってしまったのだろう
ミルクを入れない私のグラスの中の夜空では
まだ美しく星が輝いているのに...
<終>
#シロクマ文芸部
お題「凍った星をグラスに。」から始まる小説や詩
#80 どうでもいいこと
皆が下を向いてスマホに夢中の
満員電車で私も下を向いて
スマホの中に答えを探していた。
今流行りのネットAIが、恐ろしいほど
もっともらしい答えをくれたけど
ある意味それはどこかの誰かの受け売りで
私の納得いく答えではないような気がする。
「生きる意味とは?」
電車が止まり
ホームに乗客を吐き出し
エスカレーターが吐き出された乗客を
整頓しながら地上に運んでいった。
...
地上に放り出された私に、
夜空に浮かぶ
大きな広告看板に映し出されたアイドルが
小首を傾げビールグラス片手に
微笑んで言った。
「そんなの別にどうでもいいじゃん
さっさと帰ってビール飲もっ♪」
そうだね
さっさと帰ってビールを飲もう
難しい話は置いといて
今、この生きている瞬間を味わおう__
お題「生きる意味」
#79 自分勝手
眠るのを諦め
ベランダに出て
真夜中の空を見上げた
皆が眠りにつく
誰も知らない闇に
星々が流れては溶けて消えていた
こんな美しい空を独り占めできるなら
眠れない夜も悪くない...
....
もしも、
明日も私に夜が来なければ
またこうして付き合ってほしい
そんな願いを伝えが
自分勝手すぎたのか
星たちは素知らぬ顔をして
流れて消えてしまった___
お題「流れ星に願いを」