#72 春爛漫
ずっと季節は行きつ戻りつしていたのに
いつの間にか春は根を下ろしていました。
染井吉野は散り八重桜満開
花水木やツツジの花咲く
藤棚からは溢れこぼれるうす紫
そして、
オオイヌフグリ
ホトケノザ
カタバミ
ハナニラ
カラスのエンドウ
タンポポ
足元の小さな春も満開
心浮き立つ季節です。
お題「春爛漫」
短歌
うららかに
暮れる春の日
舞う桜
眼差し重ね
寄り添うふたり
#71 敗者
大好きな君の
目を見つめると
じっと見つめ返されて
思わず下を向いてしまった
僕の負け
お題「君の目を見つめると」
#70 この世界に一つだけの
賭けに勝ったお前には約束通り
この部屋の中から一つだけ、
選んで持ち去るのを許可しよう」
大魔王は威厳のある
でも少し口惜しそうな表情で言った。
「光栄に存じます。」
私はうやうやしく頭を垂れてしたたかに礼をした。
賭けには勝てたものの
ここで大魔王のプライドを傷つけるのは命取りだ。
大魔王の宝部屋
ここには古今東西
人間の世界・魔界も含めた
世界のあらゆるお宝が集められている。
単なる金銀財宝はもちろん
魔法道具のような人の世界にはないものや
また、伝説とされているようなものもあって…
一夜にして海に沈んだとされる街の古の財宝
古代帝国の王が作らせた黄金の仮面
人魚の涙とされる真珠や妖精の羽
あれはもしかして天女の衣では?
などなど.....
目を奪われるものばかりだったが
「では、この箱を賜りたく....」
私はこの中から目的の小さな箱を見つけ出すと大魔王に許しを請うた。
.......
まだ残っているだろうか?
魔界と人間界の境界まで来たところで箱をゆすって確かめるとコトンと小さな音がした。
ヨシ 大丈夫そうだ!
境界を越え人間の世界に入ると私は箱をあけ
中の者を世界に放った。
小さくて弱々しく光りながら中の者は空へ登っていった。
今は弱々しくても時がきっと大きく育ててくれるだろう。
そして、この世界の混とんを討ち祓ってくれるに違いない
そう、私が持ち帰った箱はパンドラの箱
中に残っていた者は
この世界に一つだけの希望なのだ__
お題「1つだけ」
#69【半分ずつの法則】
私は赤青鉛筆で日記を書いている。
日記と言ってもその日の出来事を箇条書きにしたためたもので
残念だったり失敗だった事は赤色
良かった事・心が温かくなった事は青色
これが私の日記のマイルール
・今朝は寝坊した 赤
・でも電車の遅延で遅刻にならなかったラッキー 青
・急な作業が増えて昼休みを削った 赤
・いいお天気 青空が美しかった 青
・彼から明日の約束はキャンセルのメッセージ 赤
・帰り道、いつもの街ネコとおやすみを交わす 青
..…とまぁ、こんな感じ
私の日常は残念な赤といい事の青がおよそ半分ずつで出来ていた。
ところがある日から状況が変わる。
・通勤途中の階段で誰かとぶつかって転んでしまった 赤
・上司の勘違いでとてもしかられ誤解をとけなかった 赤
・贔屓にしていたランチ屋さんが急な閉店 赤
・久しぶりに会った彼から突然の別れ話 赤
・あの街ネコが交通事故で死んでしまったと
大家さんから聞く 赤
・田舎で暮らす母にガンが見つかった..…赤
赤、赤、赤、赤、赤!!!!
赤色で埋まる日常が続いた_
バキッ!
ある夜、赤色が折れた。
ずっと赤色ばかりだった赤青鉛筆は
ほぼ青色鉛筆になっていた。
ふぅ~~.…
と一呼吸おいて私は鉛筆削りをだすと
丁寧に、そっと、ささくれた元赤色部分から削り始める。
カリカリカリ..…
鉛筆を削る静かな音と削りカスから微かに匂う木の匂いがする。
削りだされた元赤色鉛筆部分の独特の形と模様が美しい…
なんて、
こんな日々の中でもささやかな綺麗に感動している自分に驚く。
カリカリカリ..…
赤青鉛筆は無事にどちらから書いても青色鉛筆に変わった。
....…
良い事も悪い事も人生半分ずつ
と東洋の教えにあるそうだ。
これで私の日常はきっとよくなるに違いない
だって、もう幸せの青色しかないのだから..…
(#シロクマ文芸部
「赤青鉛筆で日記を書く。」から始まる小説)