#54 【おばあちゃんのファンタジー】
施設に暮らすおばあちゃんに会いに行った。
施設といってもとても豪華なホテルのような雰囲気の所で、一緒に暮らしているお年寄りたちもとてもおしゃれで品が良く、みんなそれぞれ趣味を楽しんで生活している。
おばあちゃんは、数年前までは自宅で暮らしていたけれど、だんだん日常のことを忘れてしまうようになり
ここでお世話になることになった。
———
施設に入ってからのおばあちゃんは若いころのことを
よく話してくれるようになったのだが
あまりにも突拍子もなくて、周囲の人たちは認知能力の衰えたおばあちゃんのファンタジーだと思っている。
そのおばあちゃんのファンタジーによると…
諜報機関の職員だったおばあちゃん
(簡単に言うと「スパイ」ということらしい)
そのころのミッションは
当時の隣国に紛れ込んで軍事計画を偵察することや
ミサイル発射を寸での所で止めて戦争が始まるのを防いだこと
国王の暗殺計画を国民に気づかれないよう阻止したりしたこともあったそうだ。
そして_
隣国の大使館員との秘密の許されない恋。
でも、ママが言っていた
「おばあちゃんはほんとはとってもスゴイ人だから
この施設に入れるのよ」
確かにパパやママの収入ではこんな豪華な所におばあちゃんを預ける事は難しいだろう…
そして、
おばあちゃんの瞳は真っ黒なのに
ママと私の瞳は少し青みかかったグレーで
戦争時代のかつての隣国の人達にどこか似ている_
———
今、おばあちゃんは陽だまりいっぱいのテラスで椅子に腰かけ、ふと思いだす「過ぎ去った日々」を私に語りながら平和な時間を過ごしている。
そして、
私はいつかおばあちゃんの恋を小説にしたいと思っている。
お題
過ぎ去った日々
#53 【お金より大事なもの】
お金は大事なもののひとつではあるけれど
ある意味、日用品でしかも消耗品だ
お金より大事なものはひとそれぞれ
またはその時々の事情で変わる
何かよりも…と比較する所とは別の場所にあるもの。
#52
月夜に溶ける匂いはもう春
お題「月夜」
#51【理想の絆】
スローガンのように
唱えて結ばれたものではなく
自然に結ばれたものでありたい
必要があれば「はらり」と解ける
美しい結び目の__
お題「絆」
#50【かぶりもの】
入社以来ずっとかぶり続けている「ネコ」
たまには外してもいいんじゃない?
ふと思い立ち今朝は素の自分で出勤した。
何もかぶらずに出かけた朝の
空がこんなに青くて広いものだったなんて
感動だ。
「ネコ」をかぶらない私は「トラ」だ。
イラっとしてガルルッと少し唸ったり
爪でガリッと机に痕をつけてしまったが
仕事の出来は最速で最高だった。
さすがトラ!
ところが、
「今日はどうした?具合でも悪いの?」と
ご親切にも、いつもと様子の違う私を心配した上司に声をかけられた。
「いえ…。申し訳ありません。
実は、今朝、「ネコ」をかぶるのを忘れてきてしまいまして...」
「あぁ そうだったのか!
じゃぁ明日からは忘れないように気を付けてね」
頼もしくて部下思い
有能な仕事ぶりの
いわゆるデキる上司は
どうやら私にはネコをかぶっていてほしいらしい...
優しく私をたしなめていってしまった。
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彼がかぶっているのは「ライオン」
リーダーにふさわしいかぶりものだ。
でも、私は知っている。
その「ライオン」の下にはか弱い「シロウサギ」が潜んでいることを。
以前、ライオン上司と同期だという
「キツネ」のお局さまが言いふらしていたのだ。
彼女は彼の出世をずっと妬んでいるわけだが
実は、若い頃、ちょっとした恋愛事情が二人の間にはあって…というのが確かめようのないみんなが知ってるうわさなのだ。
そして、私は見てしまった。
人気のないロッカー室で、
彼女の「キツネ」の下は「オオカミ」だということを....。
いくら若かったとはいえ
「オオカミ」と「シロウサギ」の恋愛となると
さぞや相容れないことがあったであろう...と双方を思いやりつつ、
「オオカミ」に先に獲物を獲られなくてよかったと心から思っている。
お題「たまには」