①「君に会いたくて」
どうしてもまた君に会いたくて
ここまで追いかけてきてしまった僕を
「今さら何?」と呆れないで
ほんの少しだけ耳を傾けてほしい
あの時、言葉に出来なかったことを
今日こそ伝えたいから少しだけ黙って聴いてくれ
「僕も愛しています」
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②「君に会いたくて」
逝ってしまった君に
どうしてもまた会いたくて
人ではない者の力を借りることにした。
対価は僕の心______
特別に呼び戻された君は
以前と変わらず僕を愛している
けれど、僕の心にはぽっかりと穴が空いてしまい君の愛には応えられなくなっていた。
でも、僕は、もう、何も辛くない
心をなくしてしまったのだから....
「閉ざされた日記」
記憶のない「私」の日課は
「私」が書いたという数十冊の日記を読むこと。
大切な人に出会い
愛しむ日々が綴られていて
その大切な人の顔はまだ思い出せないけれど
「私」にも日記の私と同じように優しい時間が育まれていった。
でも、困ったことに
最後の1冊だけ鍵がかかっていて読むことが出来ない。
......
鍵のありかを思い出せずにいたけれど
ある日のシーツ交換の時に
床に落ちた鍵に私だけが気づき「もしかして?」とそっと拾い隠し持っていた。
尖った金属は「監視」に没収されてしまうから
.....
大切な人と私はどんな幸せをつかむことになるのだろう。
でも、なぜ、こんなにも相思相愛なのに彼は一度もここに来ないのかしら?
そっと鍵を差し閉ざされていた日記を開くと
私から心離れた彼は、もう、この世には居ないこと、そして、私の自分勝手な愛情と悲しみ
拭いきれない罪が記されていた_______
鉄格子のはまる窓から
ほんの少し見える空を仰ぐ
今日も天気は良さそうだ
私は最後の日記を閉じてまた鍵をかけ
その鍵をベッドフレームとマットレスの隙間に挟み隠すと再び最初の一冊目を開いた。
白く冷たいこの病室で空っぽの「私」に戻るために。
「木枯らし」
木枯らしが粗末な家の雨戸を叩く。
すきま風の気配に触れながら
埋まる布団はいっそう冷たい
「あぁ...
早く朝がくればいいのに」
と貧しさを抱いて眠る深い夜。
キンキンに冷えた日の青い空
ひだまり猫の透き通る目
サザンカの花びら絨毯
冷たくて白い月
冬、普段使いの美しいもの。
「美しい」
真新しいこの世界は
こんな私に何をあたえる?
「この世界は」