ゆきやなぎ

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「閉ざされた日記」

記憶のない「私」の日課は
「私」が書いたという数十冊の日記を読むこと。

大切な人に出会い
愛しむ日々が綴られていて
その大切な人の顔はまだ思い出せないけれど
「私」にも日記の私と同じように優しい時間が育まれていった。

でも、困ったことに
最後の1冊だけ鍵がかかっていて読むことが出来ない。
......

鍵のありかを思い出せずにいたけれど
ある日のシーツ交換の時に
床に落ちた鍵に私だけが気づき「もしかして?」とそっと拾い隠し持っていた。

尖った金属は「監視」に没収されてしまうから

.....

大切な人と私はどんな幸せをつかむことになるのだろう。
でも、なぜ、こんなにも相思相愛なのに彼は一度もここに来ないのかしら?

そっと鍵を差し閉ざされていた日記を開くと
私から心離れた彼は、もう、この世には居ないこと、そして、私の自分勝手な愛情と悲しみ
拭いきれない罪が記されていた_______

鉄格子のはまる窓から
ほんの少し見える空を仰ぐ

今日も天気は良さそうだ

私は最後の日記を閉じてまた鍵をかけ
その鍵をベッドフレームとマットレスの隙間に挟み隠すと再び最初の一冊目を開いた。

白く冷たいこの病室で空っぽの「私」に戻るために。

1/18/2023, 1:33:09 PM