ああ、やってしまった。
目の前で泣きじゃくる子供を見つめる。
その左頬には赤く腫れたような跡ができてしまった。
子供を殴った右手が痛い。
じわじわ指先から痺れと痛みがやってくる。
でも、目の前の子供はもっと痛いだろう。
唯一の肉親から打たれ、口汚く罵られて、身体だけでなく、心もとっても痛めているだろう。
でも、私だって、育児に疲れた身体に鞭を打って、やっと掴めた再就職先でベテランスタッフに罵られながら、仕事に取り組んでいるのだ。
あんたがいなけりゃ、私はこんなに白い目を向けられることもなかった。
子供は悪くないことは分かっているが、それでも、吐き出してしまう。
膝をつき、泣き崩れる。
嗚咽が止まらない。
ふと、暖かくて柔らかいものに包まれる感覚。
子供に抱きしめられていた。
ああ、もしもタイムマシンがあったなら、大人になった泣いているあなたを抱きしめてあげたいのに。
もしもタイムマシンがあったなら
暖かい日差しに照らされた車内。心地よい揺れに眠気を誘われる。
睡魔に抗いつつ、SNSのDMを開く。
約2ヶ月前から続いているやりとりの履歴は昨日で止まっていた。
SNSで同じ趣味を掲げ、語り合った人たちと現実で会う事になっているのだ。
まあ所謂オフ会である。
スマホの電源を落とし、真っ暗になった画面に反射する自分を見つめる。
前髪良し、メイクも大きなミスはない。
ふわりとした膝丈のワンピースから覗く膝小僧は真っ白で、スマホを持つ腕も同様だ。
目的地のアナウンスが閑静な車内に流れる。
まだ見ぬ人たちとの会話に思いを馳せて、電車のドアをくぐる。
けたたましく鳴るアラームに意識が浮上する。
まどろむ意識に抵抗するように手足を動かし、サイドテーブルに置かれたスマホを手に取る。
指定された方向にスライドして未だ鳴り続けるアラームを止めた。
ああ、いい夢だった。決して私には手に入ることのない、憧れを詰め込んだ夢だ。
だが一方で私を惨めな気持ちにさせる。
嫌な夢だった。
私にはない美貌と、社交性をそのまま反映したような夢だった。
非常にシンプルだと思う。
優しい香りを略しただけだし。
バイト先に同じ名前の人もいるし。
ありきたりだし、性格悪い名前ランキングにランクインしててそれはちょっと気まずかったし。
でも名前の割に全然可愛くなくてそこはちょっと残念だな。