春ネコ

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6/7/2025, 8:26:13 AM

さあ行こう


彼女の後ろ姿が見えた。
待ち合わせをしていたのに、どうして反対側へ歩いているのだろう。

一つ年下の妹が、
「大学案内して!そんでお兄の彼女にも会わせて!!」
と連絡してきたのは、彼女と約束をした5分後だった。
彼女には話してないが、一緒にお茶をするくらいなら、きっと大丈夫だろう。
一度会っていれば、妹もしつこく会わせろとは言わなくなるだろう。

「ここにおれよ。迷子探しさせんなよ」
と、妹を残して彼女を追いかける。

なんだか、様子がおかしい。
泣いてる?

「待って!どこへ…」
泣いてる。それもボロボロと涙を流して。

なんで。

「なんで、こっちに来るん?あの子のとこに戻って」
しゃくりあげながら、早口で拒絶される。
あの子…は、妹か。話してるの見てたのか。
それで、何か勘違いしてるようだ。

「戻るけど、それは二人一緒にな」
「それは無理。私なんかつまんないんやろ…」
俺の顔なんて一切見てない。大粒の涙をこぼしながら泣き続けている。

「なんか、勘違いしてるみたいやけど、あの子は俺の妹です。大学見学のついでに、お兄の彼女に会わせてって。朝から来てるんです。ちゃんと証明するから、顔上げて?」

涙で濡れた顔をやっと上げてくれた。

「妹…さん?」
「そ、言ってなかったから、何か勘違いしたみたいやけど。一切やましいことなんて、してません」
「ごめん…なさい。私なんか、本ばっかりでつまんないし、可愛い格好もできないし、あんなに笑えないから…」
また、下を向く。
今度は、両手で彼女の顔をはさんで顔を上げさせる。

「俺は、可愛いと思うのも、笑顔が素敵やと思うのもも、泣いてても美人やと思うのも、全部君だけです」

やっと、笑ってくれた。

「お兄、何泣かしてるん」

げ…。お前、来んなよ…。

「ごめんなさい。彼は悪くないの。私の勘違いで」
ハンカチで涙を拭って彼女は答えた。

「泣いてても美人なんて。お兄にはもったいないな」
と、ケラケラ笑っている。
さすが兄妹。同じこと思うんだな。

横で彼女も笑ってる。
やっぱり彼女がいちばん可愛い。

「さあ行こう。今日はうるさい妹付きで申し訳ないけど」
妹は、何やら文句を言っているが、構わず、彼女の手をとる。

俺は、彼女と一緒にずっと歩いていたい。

3/18/2025, 2:32:19 PM

大好き

君の声が
君の笑顔が

だから離れないで
ずっとそばにいて

僕が君の笑顔を守るから

涙を見せるのも
僕の前だけにして

3/15/2025, 1:32:41 PM

心のざわめき

なんだろう…
きっと今までもこんな光景見てたのに
どうしても心が騒がしい

私といる時は
あんな風に声をあげて笑ってくれない

優しく微笑んでくれるけれど
今のあなたの方が楽しそう

本ばかりの私はやっぱりつまんないのかな
きらきらした見た目
可愛らしい声
今流行りの話ができる女の子の方が
一緒にいて楽しいよね

私は
あんな風にきらきらしてない
声も低くてぼそぼそしゃべってしまう
流行りなんて分からない

彼はもともと
太陽みたいに明るくて元気な人

私なんて
きっと似合わない

私は
彼から離れた方がいいんだ

3/9/2025, 8:07:23 AM

秘密の場所

「でも、これからも俺の隣で本、読んでてくれる?」

あれから2ヶ月。
大学生になった、昼下がり。お互いの大学近くの公園。温室があり、雨もしのげる便利な場所だ。その中のさらに奥まったところにベンチがあり、そこが俺と彼女の秘密の場所だ。

「秘密の花園みたいやね」

と彼女はいうが、本を読んでこなかった俺にはさっぱり…。それでも、この場所をお互い気に入り、毎週訪れている。

彼女が読んでいる本は、俺にはハードルが高すぎて全く手が出せないが、映画のノベライズやライトなエッセイなど、少しずつ読むようになった。読み始めると、次々読みたくなる彼女の気持ちがわかるようになった。

やっぱり、彼女の隣は心地いい。あの頃は手の届かなかった彼女が、すぐ隣で、俺にひっついて本を読むようになった。それだけでも十分幸せなのだが…。

かまって欲しいと、思ってしまう。

ふぁぁ…
大きな欠伸が出た。
ゴロンと体勢を変えて、彼女の膝に頭をのせる。

「なぁ、そろそろかまってよ」
「あと、もうちょっとやから、待って」
「ん…」

ダメか…。完全に本の世界に入ってしまってる。
しばらくは、かまってもらえない。見上げる格好で、彼女の様子を眺める。

美人だし、可愛い。俺だけが独り占めしたい。

パタン
「お待たせ」
「んー…待ちくたびれた」
伸びをしながら、彼女の頬にそっと唇で触れる。
「ご飯、行くか」

真っ赤な彼女。

そんなに驚かなくても。
もう何度もしてるのに。
慣れてもいいだろうに。

「可愛いなぁ」

こんな彼女、絶対外で見せたくない。

だからここは、俺と彼女の秘密の場所。

3/4/2025, 1:56:42 PM

約束

「でも、これからも俺の隣で本、読んでてくれる?」

すぐに答えを出すことはできなかったけれど、私は今も彼の隣で本を読んでいる。あの頃よりも、もっと近い距離で、本を読んでいる。あれから続いてる、約束。

本を読むのは私の影響だと彼はいうが、真面目な面を持ち合わせていたことは知っていたし、なんだか律儀なところがあるから、私に合わせてくれているのかなぁと思っている。私の隣で、静かにページを捲っている。

彼の隣は心地いい。初めは、ただドキドキして本の内容が入ってこなかったが、今は本を読む時に彼に引っ付いているのが、当たり前になった。彼の体温を感じながら、ページを捲る時間が心地いい。

ふぁぁ…
大きな欠伸。
ゴロンと体勢を変えた彼は、私の膝に頭をのせる。

「なぁ、そろそろかまってよ」
「あと、もうちょっとやから、待って」
「ん…」

また、ページを捲る音だけが響く。

パタン
「お待たせ」
「んー…待ちくたびれた」
そっと私の頬に、彼の唇が触れる。
「ご飯、行くか」

顔が熱くなる。
彼の唇が触れたところが、火傷したみたい。
こんな些細なことなのに、まだ慣れない。

「可愛いなぁ」

彼の隣で、約束を続けていたい。

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