月に2〜3度、いつもより30分ほど早く家を出て、学校とは真逆の方向にマウンテンバイクを走らせる。
いつもの曲がり角に着くと、呼吸を整えて時を待つ。
いつもの時間に通り過ぎていく貴女を、一生懸命に追いかけて声をかける。
「おはよう」
貴女も笑顔で「おはよう」って答えてくれる。
その後、誰も聞いていないのに、言い訳をするんだ。
「いやぁ、親の仕事都合でたまにこっちから学校に行くんだよね」
同じ言い訳を何度しただろうか。
きっと貴女は気付いている。
この言い訳が嘘であることを。
そうだよ、僕は嘘をついてでも貴女に会いたいんだよ。
ここから学校までの30分間、僕は朝の柔らかな光を浴びてひときわ輝く貴女の顔を独り占めしながら自転車を走らせる。
〜柔らかな光〜
中学生になった僕は、近所に住む先輩2名に拉致されるように吹奏楽部に入部した。
後から知ったけど、地元では有名な伝統校で、コンクールも全国大会は行けないけど、県大会通過は当たり前で支部大会常連だった。
2年生の時にまさかの県大会止まりとなり、雪辱を果たそうと意気込んで迎えた3年生の県大会。
努力の甲斐もあり、県大会突破。そして迎えた支部大会。
2年振りのステージはとても気持ちよく、そして楽しく、でもこれが最後のコンクールになるのかと言う思いもありちょっと切なく。
この部活で積み上げた思い出がフラッシュバックしてくる中で迎えたエンディングは、今までの中で1番のいい音をして、ホールの中で名残惜しそうに響いていた。
演奏が終わり、席を立ち客席を向く。
「あぁ、これで終わってしまうのか」
そんな思いでステージを後にする。
演奏の後は、会場の外で恒例の記念写真撮影だ。
ホールの外に出ると、雲一つない青空。
演奏が終わるまで、天気のことなんて気にならないほど集中してたんだな。
僕たちが奏でた響きは、風に乗って、この青く澄んだ空に向かって高く高く響いていった。
〜高く高く〜
この歳になると、やっぱり昔が懐かしくなる。
最近よく思い出すのは、高校生の頃の思い出。
ほとんどの同級生が卒業後に社会に出るため、大人になる準備をする3年間だった。
でも僕らにはそんな思いはほとんどなく、美しくも切ない、甘酸っぱい青春時代を謳歌していた。
泣いて、笑って、怒って、傷ついて。
そんな事の繰り返し。
それは集団生活を始めた幼稚園児の頃から変わらない。
高校生になっても、幼い子どものように美しい日々を過ごしていた。
もう戻れない美しき日々。
〜幼い子どものように〜