気づけば成人をとうに超え、世間では「大人」と呼ばれる立場になってしまった。しかし仕事も探し中、自立もしていない自分を果たして大人と呼べる人はいくら居るだろうか。かと言って無邪気に走り回れる子供でもなくなってしまった。大人でも子供でもない、宙ぶらりんな存在。一番タチの悪い。こうなればいっその事全てを投げ出して何も知らない無垢な子供のようにはしゃぎ回ってみたいものだが、世間の目は厳しいようでそれを容認する人は少ないのだ。当たり前だ。高校を卒業したら大学もしくは直ぐに就職、大人の社会を否が応でも叩き込まれ、あっという間に大人の求める大人になってしまう。何も親のスネを齧って生きていきたい訳では無い。自立したいと努力もしている。ただ昨日まで子供と呼ばれていたあの子たちを、成人した途端に社会の求める都合のいい存在として扱うのはどうかと思っている。
母校の周辺は観光地であったが適度な田舎であった為、令和の世にも関わらず学生が暇を潰せる施設はコンビニか本屋くらいしか無かった。それでも私たちは1時間に1本しか来ない汽車の到着時間があっという間に来ると感じてしまうほどに放課後を楽しく過ごしていた。SNSの話題を共有したり、唐突に絵しりとりを始めたり、先生も混じってダラダラ喋っていたり。「時間を無駄に消費する」という贅沢を謳歌していた気がする。最寄り駅まで徒歩5分。汽車の時間が来ると小走りで学生で溢れかえった小さな駅に向かう。汽車は二両編成。乗車する学生の数を考えるともう1両ほどあって欲しいものだった。他校の生徒に揉まれながら空席を探し、無ければ諦めて友達同士でくっついて直立する。ゴトゴト、振動に体を持っていかれないように耐えながらイヤホンで音楽を聴く。高校生っぽく単語帳なんかを開くが、もちろん頭には入ってこない。窓から見える田園風景。あのどうしようもなく無駄な時間を過ごしまくっていた放課後が、今になってどうしようもなく輝いて見えて仕方ないのだ!