君が
「星を見に行こう。二人で。」
と誘ってくれた。
いつもは私から行動してばかりで、まるで独りよがりだった。だから、誘われたときはとても嬉しかった。
待ち合わせ場所に着いたとき、私は初めて君の私服を見て、少し興奮していた。こんな服着るんだなって。君も同じように思ってくれてたら、嬉しいな。服選び頑張ったから。
二人で乗った電車は、席が隣で、距離がとても近かったから、なんだかドキドキしていたよ。真隣からみる君の横顔はとても綺麗で少し見とれていたら、君と目が合ってしまったよね。照れくさそうに笑う君の顔が可愛くてたまらなかったよ。
駅のホームでふと急に
「これってもしかしてデート?」
と思ってしまってから、余計に意識しちゃってすごく心臓の音がうるさかった。あれからずっと私の心は高鳴ってる。
天文学の知識は全くなくて、もしかしたら話がもっと盛り上がったかもしれないって気付いた時は悔しかったな。だけど、君が色んなことを教えてくれて、君の楽しそうな表情を見れて私も楽しくなってた。
星って不思議な力があるよね。
二人並んで夜空の星を見ていたら、すごくロマンチックな雰囲気になって、何か起きるんじゃないか。って私、思ってた。そしたら、君が私の手を握り始めて、嬉しさと照れくささがすごく込み上げてきたけど、グッとと堪えて私も優しく握り返した。
私そのときに思ったんだよね、
「このまま時が止まってくれないかな」
って。そしたらずっと手を繋いで居られるから。
でも止まってくれはしないし、折角だから赤くなった君の顔が見たいなって思って、チラッと覗き込んでみたんだよね。そしたら、キスされた。急なことすぎて驚いていたけど、君の気持ちが分かったし、ちゃんと、伝えたいなって思って、
「私、君の事好きだよ。君は、私の事好き?」
って聞いてみたの。
「もちろん。違ったらこんなことしないよ。」
って返事が来て、凄く勇気出したし、振られたら凄く辛いなって思って、少し身構えてたから、本当に嬉しくて、私まだ覚えてる。
本当に君のこと好きだなって思った。
もう時は止まらなくていいかな。これから二人で愛を育んでいきたい。
石塚 音羽が書きました。
テーマは「時よ止まれ」です。
香るネモフィラ。
純粋で可憐で、爽やかな優しさを持つ君にはぴったりな花だ。
「僕は君にこの景色をプレゼントしたかった。」
少しばかり、格好をつけてみた。君はクスリと笑ってくれるだろうか。
ふと、思い出にふけてみる。
僕たちは出会ってから二人でたくさんの苦楽を共にした。
小学校ではよくみんなでドッジボールしていた。あの頃は全て楽しかった思い出がある。
中学に上がってから、君とは疎遠になった、すれ違っても挨拶を交わさないくらいに。
高校入学の日、君が同じ学校だと知った時は、微かながら嬉しさを感じた。
同じクラスになり、また僕たちはドッジボールをしそうになるくらい仲良くなった。
卒業が迫るころ、僕たちは夜の観覧車でいかにもロマンチックなキスをするような仲になった。
だから僕は、あのことを知ったとき、なんて言えばいいのか分からない、ぐちゃぐちゃな感情になった。
君があの殺風景な診察室で、"余命一年"と宣告されてから、一日一個君と目標を達成するという日課ができた。ひとつずつ、思い出が増えてゆく一年になった。
病室で二人でジグゾーパズルをして、完成したときは思わず声を出してしまったり、窓から見える星空を二人だけで眺めたり。ほんの少しだけ遠出をして、二人の思い出の場所へ出かけてみたり。
残り三ヶ月となったころぐらいかな。君は本当にまだまだ生き生きしていて僕のそばを離れてしまうなんて想像も出来なくて、僕がまだ漠然としていたころのことだ。
「私、最近少しずつ身体がボロボロになっていくのが分かってきて、まだ大丈夫って分かっていても、身体が私に、君はもう死ぬ運命なんだよ。って伝えてるみたいで、いつも強がってたけど本当は死ぬのが怖い。病気に私の身体が蝕まれていくのが怖い。……助けて欲しいなんて言っても君には出来ないことは分かってる。でも、今はそばにいて欲しくて。」
君は僕に弱音を吐いてくれた。
君らしくなくて当時は驚いたが、今考えれば当たり前のことだと当然のようにわかる。
身の回りの人が病気で死ぬことに慣れていなかったため、そのときは、どう声を掛けていいのか分からずただそばに居ただけだった。
あれからはできる限りずっと君のそばに居た。君には絶対に寂しい思いをさせてはいけないとなんとなく思った。
君と過ごした時間が増える一方、君と過ごせる時間が減っていく。そんな当たり前のことに僕は辛さを感じた。
あれから二週間後かな。君は安らかに眠った。
まだ時間は残されていると思っていた。現実は、そう甘くなかった。
その日は、二人でネモフィラの花畑に訪れる予定だった。
「この景色を君にプレゼントするよ。」
と言って、君の左手の薬指に結婚指輪を嵌める予定だった。
ずっと前から決めていた。君にプロポーズするならここがいいと。
八月十三日。その場所に、今僕は居る。
君に渡すはずだった指輪を持って。
また、来年も同じ日に僕は来るだろう。
同じように思い出にふけって、今度こそは、プロポーズさせて欲しい。
石塚 音羽が書きました。
テーマは、『花畑』です。