学生のころ、寒い日には温かいペットボトルのミルクティをよく飲んだ。仲間うちでも気に入ったものがあって、いつもそれを選んでいた。他のものより、紅茶の風味がよく、まろやかな味が良かった。誰かが、そのオレンジ色のキャップのボトルを手にしていたら、飲みたくなった。
凍える手で、自販機からボトルを取ると、それだけで少し癒された。ほんの少し苦みがある甘いミルクティが喉を通っていく。お腹の中からふぅーっと温かくなった。
君と散歩する時も、一緒によく飲んだ。その甘さが、寒さや緊張なんかもほぐしてくれた。
自販機で見かけたので、久しぶりに買ってみた。こんなに甘かっただろうか。何口か飲むとあの頃のことが蘇ってきた。変わらないぬくもりだった。
「遠い日のぬくもり」
仕事を終えて外に出た。人が多い気がする。ケーキを売る人の熱を帯びた声が聞こえてきた。ああ、今日はクリスマスイブだった。
足早に人々の間を潜り抜ける。どこもいっぱいだろうなあ。食事をするのに、いつもの喫茶店に行ってみた。店の扉を開けると、テーブルの一つ一つにキャンドルが灯っていた。
あっ。思わず足がすくむ。「いらっしゃいませ」。いつもの窓際の席に座った。手元で注文を終えると、キャンドルがゆらゆら揺れるのを見ていた。本物の炎を見るのは、久しぶりのような気がする。不規則に、ちらちら揺れるのが何とも心地よかった。
一人の客が多く、キャンドル以外はいつもの雰囲気だ。「お待たせしました」。サンタの姿をした人が笑顔で立っていた。よく見ると店主だ。普段は、ちょっとクールな感じだから、似合っているのかいないのかよく分からない。笑いが込み上げそうになった。
料理の皿にも、さりげなくサンタのイラストが描かれたピックが刺してある。キャンドルの灯りに照らされるサンタの笑顔を見ながら、ふわっと心があたたかくなった。
「揺れるキャンドル」
暮れになると、心がざわつく。大掃除、年賀状? あんまりしないくせに、忙しなく思う。街に行けば、クリスマスの音楽が流れ、パーティやお正月準備の品があふれている。何かとイベントが目白押しなのだ。
何か流れに乗らねばという気分になるのだけれど、どこかでついていってない自分がいる。
賑やかな店を出て、外を歩く。イルミネーションや、街の灯りがきらめく中、そこだけ違う雰囲気の場所があった。お寺だ。
夜の闇の中、静けさに包まれていた。街の灯りがぼんやりと寺の輪郭を浮かびあがらせる。建物を取り囲む回廊に、街路樹に灯る薄青い光が差し込んでいる。青く染まる木目。そのひっそりとした青をしばらく眺めていた。
回廊は、ぐるっと続いている。光が差さない奥が、どうなっているかは見えない。まあ、粛々と今を過ごすかと思いながら、歩きだした。
「光の回廊」
後になれば、よくわかる。想いを積み重ねても、それだけでは見えない。素直に言葉にしなくては。その目に、精一杯の想いをこめても、言葉にしなくては分からないのだ。
あなたの上に、たくさんの想いが積もっていっただろう。それが雪ならば、見えたのに。確かなものがないと、伝わらない。言葉にしなければ。
その勇気が出せないまま、想いだけがあなたの上に積もっていく。ある時、それが目の前で崩れる。想いは、あなたにはっきりと伝わらないまま。このままだと、それは何度も繰り返される。
想いがある程度降り積もったのなら、勇気を出して言葉にしよう。
「降り積もる想い」
贈り物に、結ばれていたリボンは、捨てがたい。それが美しいだけでなく、結ばれてから、解かれるまでの短い役割を思うからかもしれない。
そんなリボンたちを、箱に入れている。たまに取り出して、何かに結んでみたり、ひもの代わりに使ってみたりする。中には、使うことはなく、しまってあるリボンもある。
大切な決断をした時に、もらったリボンは、小さな袋に入れてある。ひときわ白く、つやっとした光沢があった。あまりに美しかったのと、その時の気持ちを残すために、とっておいた。久しぶりに取り出すと、その色もつやも当時の輝きを失っている。
過ぎてきた長い年月を思う。リボンとしての役目はとうに過ぎている。でもまだ手放す気にはならない。もう少し一緒に時を重ねることにした。
「時を結ぶリボン」