暮れになると、ばたばたと忙しくなる。世の中が、クリスマスや忘年会なんかで、何かと賑やかなのを見ながら、せっせと目の前の仕事を片付ける。このごろはあっという間に日が暮れて、暗い時間がとても長い。
何となく夜のほうが仕事がはかどる。早くすませたよう。気付けば、もう周りには誰もいなくなっている。今帰ると色々な店もまだ営業しているだろう。少し気分転換をして帰ろうと思う。
下に降りると、ちょうど他のフロアの人と一緒になった。「遅いですね」と、思わず笑顔を交わす。お互い反対方向に出ようとすると、「あ、これ、よかったら」と小さな包みをポケットから出して、手のひらにのせてくれた。赤いリボンと小さなベルがついて、飴がいくつか入っていた。「取引先でもらって。どうぞ」そう言って、さっと帰っていった。
赤いリボンの色と色とりどりの飴を、しばらく眺めた。手のひらが、じんわりと温かくなったような気がした。
「手のひらの贈り物」
忘れてなんかいない。心の片隅でずっと残り続けている。あれからたくさんの日々が重なって、細かいことは、覚えてないかもしれない。
でも、それはずっと残っている。長い年月をかけて、都合がよいように書き換えられているかもしれないけれど。
たくさんの関わりは、心の引き出しに一つ一つしまわれている。時々ふっと出てくることもあれば、自分から見にいくこともある。
大切な引き出しだ。
「心の片隅で」
冬の寒い日には、あたたかい部屋で本を読むのが好きだ。図書館もいい。子どもの時は、図書館の大きなストーブの近くに行って、夢中になって本を読んだ。じんわりとしたぬくもりと、本の独特の匂いに包まれていた。
久しぶりに、大きな図書館に行った。あの独特の本の匂いがする。大きな机の一角に座って、本を読む。図書館でしか読めないような大きな辞典なんかも眺めてみる。
たくさん人はいるけれど、静かだ。まったくの無音ではない。そこにいる人の言葉にはならない思考に取り囲まれている。そういう空気も心地よかった。
ふと、外を見ると雪が舞っていた。うっすら積もり始めている。雪は、せわしなく動くのに静かだ。音を吸収する気がする。外からもすっぽりと静寂に包まれて、ページをめくる。
「雪の静寂」
夢から覚めた時、ああ夢かとがっかりすることがある。君が見た夢は、そんな感じだったらしい。でも、いつもと違うのは、夢の中で感じた思いがずっと残っている気がすることだ。
夢では、とても温かな気分になって、幸せだったそうだ。起こったことは、現実ではないけれど、その温かな気分だけは残って、今も心の中に広がっているのだと。
君は、何がが吹っ切れたようなすっきりした顔をしている。たとえ夢であっても、今の心が癒されたのなら、よかったと思う。どんな夢だったのと聞くと、私の顔を見て楽しそうに笑うだけで、教えてくれないのだけれど。
「君が見た夢」
何だか心が晴れないということが続く。そんな時は、外を歩いてみる。
色々な人が歩いている。木々はすっかり葉が落ちて、冬仕様になっている。線路にいつものように電車が走っていく。見慣れた光景が淡々と繰り広げられる。ごちゃごちゃしていた頭の中が少しずつ薄らいでくる。
いつもは通りすぎる公園も、今日は中に入ってみる。懐かしいような土の感触。まだ残る落ち葉を踏み締める。奥に行くと、一本の木に目が止まった。白い光がぽつぽつと枝先にともっているように見える。近づくと花だった。
よく見ると桜に似ている。この時期に咲く品種なのだろうか。ほんのりピンク味を帯びた花びらは透けるように繊細だ。それが冷たい風に吹かれて、ちらちらと揺れながらもふんばっている。
たくましいなあ。木の下に入って、花を見上げる。空は、青く澄んでどこまでも高い。花はかすかにその青を映していた。
もう少しがんばってみるかな。深呼吸すると、キンと冷えた清々しい空気が入ってきた。大きく足を踏み出して、また歩き出した。
「明日への光」