小さい時は、色々なことに夢中になって楽しかった。中でも、何かがずば抜けて優れた人がいたら、きっとその道で何か成し遂げると思った。
君は、とてもすてきな音を奏でていた。その音が聞こえてくると、みんなが振り向いた。きっとその道の星になるとうわさした。たくさん練習して、ますますうまくなっていっていた。そして、本人が何より楽しそうなのがいいと思っていた。その道の学校に行って、更に腕を磨くことにした君を、みんな応援していた。
時が経ち、君は元気にしているだろうか。小さい頃夢見たことを、みんなも続けているだろうか。今は、そんなこと、もうとっくに忘れてるよと言うのかもしれない。大人になって夢ばかり見ていられないなんて思っているかもしれない。いや、まだまだ発展途上なのかもしれない。
たくさんの人の星にはならなくてもいい。そんな大それたことなんてなくっても構わない。あの時のように、君が今も笑顔で楽しんでいてくれるといいなと思う。
「星になる」
この街に引っ越してきてから、時々遠くから鐘の音が聞こえてくることに気づいた。ゴーン、ゴーンと確かに鳴っているようだ。地図で調べてみると、周辺に寺がいくつかあった。
街を散するついでに、歩いていける寺まで行ってみる。そこには、鐘は見当たらなかった。いったいどこから聞こえてくるのだろう。風向きの加減か、空気の関係か、比較的よく聞こえるときと、そうでもないときがあるような気がする。もっと遠い場所なのかもしれない。
その鐘の音はゴーン、ゴーンと程よい音域でなり、そして、ふぅーんという感じで消えていく。それがとても心地よい。
ある朝、コーン、コーンと鈍く震える音で目が覚めた。鐘?と思うと、目覚まし音だった。何かの拍子に音の設定が変わっていたらしい。当たり前だけれど、あの鐘の音とはまったく違う。
もうすぐ、大晦日がやってくる。厳かに響く除夜の鐘を、遠くから聞けるかもしれないと、楽しみにしている。
「遠い鐘の音」
冬の晴れた日に、外をぶらぶら歩くのが好きだ。厚手のコートをまとい、マフラーと手袋でしっかりと温かくして歩く。顔にかかる風はとても冷たく、鼻先が赤くなっているかなと思う。
その場ですぐ忘れてしまうような、とりとめもない話をする。街の街路樹の葉はほとんど落ち、もう粉々になって、道の端に集まっている。木の枝は、よく見ると一つ一つに個性がある。
日が差して温かく見えるのに、ふと、顔に冷たいものがかかる。雪だ。小さな雪がちらちら、ちらちら落ちてきた。明るいのに雪? 初雪だと言いながら、なんとなくはしゃぎたくなる。
雪の額縁に彩られ、君の笑顔ももっとすてきに見える。こんな時間が続くといいのに。しばらく、この雪を楽しんでみよう。
「スノー」
昼間の明るい空もいいけれど、夜空は闇にまみれて、思いがすーっと飛んでいく気がする。
冬の冴えた空気がより遠くへと運んでいく。キラキラと輝く街の灯りに彩られて、その思いは遠くへ飛び立つだろう。
夜空を見上げながら、願いをこめて思いを飛ばしてみる。灯りをまといながら、見えるところから遠くの闇へ深い深いところを超えていく。そして、すーっとあなたのもとへ届くと思っている。
「夜空を超えて」
何が原因かわからないけれど、ずーんと落ち込むことがある。きっと小さな何かが一つ一つ心の奥に沈んでいって、それがいっぱいになった時、ああもう限界となる。
そんな時は、何もかもが刺々しく感じる。今日会った人、街で会う知らない人、お店で出会う人
、目に入る景色、自分、すべてがなじまない。もう、人としているのが嫌になって、どんよりと狭いグレーの世界に入っている。
とことんグレーの空気をまとっていると、ある時、ふぅっと抜け出すときがある。知らない人の何気ないひと言、たわいもない会話、接してくれた人の笑顔だったりする。
抵抗しても、温かいものがじわじわとグレーの世界に広がってくる。こんなに自分を含めて人は嫌と思っていたのに、人から感じるぬくもりは、悔しいほど効果てきめんだった。
「ぬくもりの記憶」