カメラにレンズフィルターをつけると、光が色々とあやつられて、違う世界を見ることができる。心にもレンズフィルターをつけたら、強すぎると感じる光から心を守ることができるかもしれない。
ふわっと曇りガラスのように、ソフトにしてみたり。程よく影を見せてもらって、刺激を抑えてみる。温かい色をプラスして、ほっこりしたり。シャープな色合いでクールダウン。時には、キラキラした光を強調して、エールを送ってみたり。
そんなことを想像してみたら、何だか面白くなってきて、少し心が軽くなるような気がする。
「フィルター」
その新しいコミニュティに行くようになってから、もうだいぶ経つ。少しずつおしゃべりも交わすようになっていた。でも、ある時名前を呼んでもらえないことに気づいた。距離を感じて、寂しく思う。まだまだ、新しい人なのだ。
人の出入りが少ないところで、そこに新しく受け入れてもらうのは、難しいのかもしれない。こちらからももっと心を開けばいいのだろうか。
まあ、そこまで気にすることないか。また普通にしていれば、いつも通りこれからも過ぎていくだろう。それでも、居心地が悪いような気がするなら、もっと自分に合う場所を探してみよう。
「仲間になれなくて」
帰ろうとしたら、急に雨が降ってきた。雨の予報ではなかったので、傘を持っていなかった。「傘、忘れた」と言っていたら、ふいに君が通りかかった。
「傘ないの?これあげるよ」と、ビニール傘を差し出してくる。えっ?と戸惑っていると「忘れてよく出先で買うから、傘たくさんあるんだよ」と言って、さわやかに笑う。そして、カバンからさっと折り畳み傘を取り出して、さっと行ってしまった。
その時の傘は、まだ大切に家にある。
「雨と君」
廊下を歩いていると、何か音がした。誰もいないはずの教室。誰かいる? 扉を開けてみる。誰もいない? 中に入ってみて、階段教室の上から眺める。一段一段降りて、教壇までたどり着く。誰もいないよね。振り向いて、ズラっと並ぶ机を見渡す。奥に向かって規則的に続く机の列が、いつまでも続いているように見える。
これまで、どのくらいの人たちがここを出入りしたのだろう。色々な人たちの気配が教室の中に沈んでいる。ガタン、ガタン。ん? 椅子の音? 他の場所から響いているのだろうか。
教室は、誰もいなくても、ずっと人の気配を宿している気がする。
「誰もいない教室」
仲間たちと乗った車の旅は、おしゃべりが楽しくて、私はわくわくしていた。
山道を行きながら、後ろの席から運転する人を見ていた。密かに憧れていたその人は、運転が上手だった。カーブをくるりと曲がり、すいすいと行く。山の木立を抜けると、ぱっと青々した高原が広がる。周囲には、全く車も人もいなかった。
さらに進んでいくと、珍しく信号があった。そこでどのくらい止まっていただろう。助手席の人が、「あれっ? 信号変わらないね」と言う。運転する人と信号を覗き込んで、同時に「あっ!」と言った。感応式と書いてあったらしい。
「このまま気づかなかったら、ずっとここにいたのかもね」。山の中で、ずっとぽつんと止まっていたことがおかしくて、皆で笑った。でも、私は、もっとこのままでも良かったなんて思っていた。穏やかなこの時のことが、今も心に残っている。
「信号」