溢れ出たものはハートのかたちをしているとして、
胸の中にいる本体は、眠りつづける猫みたいなかたちじゃないかと思ったりする。
ハートなんかよりもっと有機的な。
そしてわたしの胸の中の様子を見てみると、
二匹の猫がいる気がする。
一匹は灰色猫。
これからは黒いハートが出てはすぐにぼろぼろとくずれるを繰り返しているみたい。
こいつからは傷つくようなことをされたり、心配事が多いから、こんなことになっているのだろう。
もう一匹は白身の多い茶トラ。
肉球の色のような薄桃色のハートを出しては、パチン、パチン、とはじけて消える。
ただ胸の中でハートを出しているのではもったいないので、時々その薄桃色のハートを取り出して、あのこのLINEに送りつける。
「愛情」
頬が
バラ色か
りんご色かに染まる。
僕は それを見て
咀嚼するべきか
それともとぼけて額に額をあて
熱を測るふりでもするか
じっと考えていると
ふじりんごが紅玉になっていくので
咀嚼することにする。
「微熱」
青空の手前には、濃ゆい影を持つ輪郭のはっきりした細長い雲がいくつも浮かび、
その下には透明な冷たい空気が通る。
家々の屋根瓦は濡れて、山々の洗い流された緑は色を濃ゆくし、道端のビオラは雫を落として震える。
黒々としたアスファルトの上には今日も人々の乗った車が列をなし、あちらやこちらに向かっている。
それらが全て青空の向こうのおひさまの光に照らされて、アクセサリーのように、キラキラと光を纏う。
昨日はそんな朝だった。
ちなみに今日は曇って風がすごいです。
「太陽の下で」
「ちょっとだけでも会いたい。」
そう言って
彼女を、彼女の家の近くの学校の運動場まで呼び出した。
コートにマフラーを巻いて来てくれたけど、
それでも寒そうにしながら
「星がきれいだね。」
ときみは言った。
真っ黒な夜空にチラチラと星が瞬く。
僕はそんなきみを自分のコートで包むように後ろから抱きしめた。
きみはなんだか困ったようにしながらも僕の腕の中でもぞもぞと動き、こちらを向いたかと思うと、コートの中の僕のニットのカーディガンのボタンをもぞもぞと外しはじめた。
最後のボタンを外し終わると、きみは僕のカーディガンとシャツの間にするりと両手を入れて、僕に抱きついた。
「あったかい…。」
僕はそんなきみを今度はカーディガンとコートで包んだ。
お風呂上がりなんだろうきみの髪はまだ湿っていて、シャンプーの香りがした。
「セーター」
「ごめんなさい……」
言葉がこぼれ落ちた。
「ごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
なにに謝るわけでもない。
「ごめんなさい…」
「ごめんなさい…」
でもなにかに謝ってて
気がつけば言葉はわたしの周りにたくさん落ちて泉のように溜まっている。
それでもまだ
「ごめんなさい…」
言葉を落とす。
いつか蛇口が止まったら
そこは忘れられた泉になるから。
それまでは…
「落ちていく」