修学旅行の時、長崎かな?
ぽっぺん って鳴るガラスのやつ買ったんだよね。
ビードロ?
お店で見た時はとてもきれいだったんだけど家にあるとその時ほどではぜんぜんなくて、掃除もどうしていいやらわからないし、そんなに使ったりもするものでもないし。
だけど捨てるのはなんか違うかなーって。
そういえば木刀買ってる男子がいたなー。
うらやましかった。
ビードロより有意義だったかなー。
振り回して遊べそうだし。
シャボン玉みたいなビードロも、木刀も、どっちもほしかったなー。
これがぽっぺんのあの透明のふくらみの中にある思い出かー。
「いつまでも捨てられないもの」
ボクは完全に間違えたのではありません。
ボルボックスをコロボックルと書いたのです。
あともうちょっとです。
だからそんなボクにクンショウモの勲章をクダサイ。
「誇らしさ」
波の音が聞こえる。
向こうの空は薄紫だ。
てっぺんのほうは黒っぽい。
粉みたいにさらさらの砂浜に寝っ転がって見上げると無数の星。
チカチカと光るあれはたぶん飛行機。
スイッ スイッ
流れ星たちが流れてく。
ジュッ ジュッ
海に落ちたらきっとこんな音がする。
「夜の海」
「きゅうり馬にナス牛…」
死んだ人はきゅうりの馬に乗って帰ってきて、ナスの牛でまた行っちゃうんだって。
ぼくはその隣にロードバイクのミニチュアを置いた。
だってこれってちょっとダサいよ。
それに祐介おじさんならこれが一番早いはず。
アンダルシアの光を浴びて、ピタピタスーツで白い歯を見せてるおじさんの遺影。
帰ってくるのはこれでいいとして、戻る時には何にするかな。
行きは早くて帰りがゆっくりならやっぱりナス牛か。
帰りには自転車は隠しておこう。
「ね、おじさん。」
「自転車に乗って」
「つまらないことでもないよ。」
アイスコーヒーに刺さったストローを触りながら田崎は言った。
カランカラン。
入り口の鐘の音が鳴った。
「いらっしゃいませー。」
田崎をちらりと気にしながら麻実が言った。
さっきの言葉は
毎日この店に何をするでもなく律儀に来る田崎に、話の流れで
「わたしは田崎さんのお顔が見れてうれしいですよ。田崎さんには特になんということもないつまらないことなのでしょうけど。」
と言ったのの返しだった。
太陽を浴びて育った豆の香りが店内に立ちこめる。
今来た客への一杯を入れる。
物静かだけど誠実で、いつもやわらかい表情と声で接してくれる田崎のことをすきになるのなんて、たぶん最初から決まっていた。
なんてことない田崎の一言一言で、麻実の頭の中は蝶よ花よとファンファーレを起こしてしまう。
この恋が上手くいかなくたっていい。
ただ今はこの時間を大事にしていたい。
この恋に終点は来るのだろうか。
来るとしたら気持ちを打ち明けてしまった時なのだろう。
仕事が終わり、お店の裏口から出て麻実は
麦わら帽子を被った。
彼女の夏のトレードマークみたいなもの。
喫茶店に勤めているのもそうなのだが、麻実は芳ばしい香りがするものがすきだ。
麦わら帽子の香りは彼女にとって気持ちの落ち着くもので、夏の香りと言うべきものだ。
少しばかりその夏に浸っていると、2階の事務所の窓から鼻歌が聞こえてきた。
今度はしばしすきな人の奏でる音楽に身を浸す。
「あっ、今帰り?」
2階の窓から田崎がひょこりと顔を出した。
「はっ、はいっ。そう…です…。」
帽子を押さえながら上を見上げて麻実が答えた。
「お疲れ様。」
そう言って田崎はやわらかく微笑んで、
窓際の小さな観葉植物に水をあげはじめた。
さっきよりも鼻歌のボリュームを落として。
麻実も水を注がれるその植物のように、葉脈の隅々まで、心が健康に充ち満ちるような気持ちになるのだった。
50作突破記念
「心の健康」
7/15 20作 7/27 30作 8/4 40作 突破記念の続き。
これまでのタイトルを並べて繋げたもの。
内容は続いていない。
◯作突破記念とか言っているがあくまで目安でけっこうてきとうに発動。
反応に関係なく自分が楽しいのでやってる企画。
インターバル的なもの。