無垢
左右に田畑が広がるだだっ広い道路。
少し汗ばんだ背中。
袖から入る心地の良い風。
私は自転車でいつものようにその道を通る。
タイムリミットへの焦燥を抱えながら、
今日やらなければいけないこと、
将来への漠然とした不安、
ハンドルからなびいてくるクモの糸の存在など、
アレコレ考え事をしていると、
前から対向して自転車が走ってくるのが見えた。
私はその自転車の進路上から避ける。
しばらく漕ぐと、自転車は手前を横切る細い道で右に曲がるようだ。
後ろにはチャイルドシートに跨る子供がいた。
自転車には女性と女の子の二人が乗っていたようだ。
女の子と目があった。
どきりとした。
私は誰であっても視線を恐ろしく感じる。
自分で作り出した偽の視線に苛まれるほどだ。
私は意思に反して見てしまう。
女の子は笑顔で手を振っていた。
誰に?
後ろには誰もいない。
私?
私のハンドルに置かれていた右手は、
戸惑いながら小さく四本指を挙げた。
信号待ちをしながら、私はもっとちゃんと手を振ればよかったなどと考え出した。
少しだけ楽しい気持ちになった。
「ごめんね」
昔、仲違いした友人にこの言葉を伝え忘れた。
夢の中での友人は、ぼんやりとした顔の輪郭で、何事もなかったかのように会話をしている。
夢に見る年数のほうが、友人と過ごしていた時間より多くなっていた。そのため、起きた後すぐは、仲違いしたことを忘れている。しばらく経って頭が動くようになった後に、ようやく気づく。
私は当時、今よりもさらに自己肯定感が低く、自意識過剰だった。
少し会話が途切れた時も、
私はつまらない人だ、とか。
どうしてつまらないのに相手は話してくれるのか、とか。どうしてこんな私と一緒にいるんだ、とか。
私は自ら相手を遠ざけた。
他に理由はあったのかもしれない。
ただ、少なくとも原因の一つとして考えている。
何年も経った今、私はあなたに謝りたい。
自分よがりだったね。ごめんね。
でも、あなたは私に多くのことを気づかせてくれた。
私が私を見つめ直すキッカケを与えてくれた。
ありがとう。7年間仲良くしてくれてありがとう。