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無垢

左右に田畑が広がるだだっ広い道路。
少し汗ばんだ背中。
袖から入る心地の良い風。
私は自転車でいつものようにその道を通る。
タイムリミットへの焦燥を抱えながら、
今日やらなければいけないこと、
将来への漠然とした不安、
ハンドルからなびいてくるクモの糸の存在など、
アレコレ考え事をしていると、
前から対向して自転車が走ってくるのが見えた。
私はその自転車の進路上から避ける。
しばらく漕ぐと、自転車は手前を横切る細い道で右に曲がるようだ。
後ろにはチャイルドシートに跨る子供がいた。
自転車には女性と女の子の二人が乗っていたようだ。
女の子と目があった。
どきりとした。
私は誰であっても視線を恐ろしく感じる。
自分で作り出した偽の視線に苛まれるほどだ。
私は意思に反して見てしまう。
女の子は笑顔で手を振っていた。
誰に?
後ろには誰もいない。
私?
私のハンドルに置かれていた右手は、
戸惑いながら小さく四本指を挙げた。
信号待ちをしながら、私はもっとちゃんと手を振ればよかったなどと考え出した。
少しだけ楽しい気持ちになった。






6/1/2024, 10:27:34 AM