お題『夜空を駆ける』
私たちは、今は空を手放しで駆け回ることが難しい。
ぴゅーんと全身に風を受けながら、自由に飛び回れたら楽しいだろうなあと、たまに思う。
私たちは、空を駆けたり、指先に光を灯したり、時間を止めたり、傷を即座に癒したりは難しい。
その代わり、言葉を使える。
夜空を駆けた時の風の冷たさを、指先に光を灯した時のあたたかな熱を、時が止まった時の孤独さを、痛みが引いて、いつもの肌が戻ってくる時の安心を、言葉で表すことが出来る。
きっと、私たちは、それらを表す言葉を、知っている。
お題『密かな思い』
そっと誰かを思う夜、心がしっとりする。
バレないようにそっと、でも確かに思っている。
星がきらきらして、月はぼんやりと私たちをみつめる。
お題『あなたは誰』
好きな食べ物は何ですか?
好きな物は?
苦手な食べ物は?
あなたはどんな言葉で嬉しい気持ちになりますか?
なんと言われたら悲しいですか?
大きさはどれくらいですか?
あなたを知ることは、暴くことは、あなたに近付くこと。
あなたは誰ですか?
お題『手紙の行方』
無言でぽんと置かれた小さな紙切れ。
なにこれ。
渡してきたクラスの奴を見れば、そいつは何も語らないし、意味深に笑いもしない。本当になんで回してきたんだよ、と俺は心で思った。
開いてみれば、先生の下手な似顔絵が描いてある。吹き出しそうになって咄嗟に口を抑えた。なんだこの目は。ちょっとズレてんじゃん。鼻の形もリアルな造形に近くてやばすぎだろ。唇もなんかめっちゃ厚いし。
誰に渡せばいいかな、と周りの座席のやつらを思い出す。
後ろのやつは駄目だ、こういうのあんますきじゃない。右のやつは…、まあ、悪くない。
小さく折りたたんで、渡した。
それからの昼休み、「あれ傑作なんだけど!」なんて言いながら、そいつは笑っていた。
「なあ、あれ誰が持ってんの?」
「しらね、オレ白井に渡したし。」
「あの後中村くんに渡したよ。笑ってたし」
次々と名乗りはあげたのだが、結局、手紙は誰の手に渡ったのか分からなかった。
お題『輝き』
今日は月を見た。なんだか、小さな灯火や、ジャック・オ・ランタンのような、そんな色の月。
星は静かに瞬きした。赤、白、青、いろんな自分の光で、それぞれの場所で。
お店の灯りが消える瞬間を見た。一日の終わる、その瞬間を見た。
雪が街灯に照らされて、存在を暴かれた。
子どもがレジでお菓子を買ってもらうところを見た。嬉しそうな顔だった。