「どこにも書けない、ここにしか」
私は日記帳に記していた。
毎日の愚痴や悩みや好きな人の話。
もともと受け身で話したりするのが得意じゃない私はいつも聞き役。
だからないがしろにされたと思うことや、つらい気持ちがあってもなかなか人に伝えられない。
だから、日記帳に書くことにした。
私の今日の日記は・・・
2月7日
今日は朝から晴れでうれしい。
学校に行く途中で渡部くんを見かけた。ドキドキしながら見ていたけど、気づかれなかった。
ザンネン。渡部くんは、私に気づくといつも挨拶してくれるから気づいてほしかったな。
学校では、奈々ちゃんの恋バナを聞いていた。奈々ちゃん々は、ほぼ両思いだって言っていた。うらやましいなぁ。
掃除の時間、片瀬さんがだるいから当番変わってって言ってきた。
私は断れず頷くと、後で奈々ちゃんに怒られた。
奈々ちゃんは明日片瀬さんに抗議するって言うけど、大事になってほしくないなぁ。
受け身・・・。
いつも日記を見てて思うのが私から行動できることが少ないってことだ。
私の理想の自分はちゃんと意見言えて、でも人とぶつからなくて、みんなから好かれてて、いつも明るくて、そんな人だ。
だけど、そんな人、実はいないんじゃないかと最近思う。
人気者でも、陰で悪く言っている子がいるのを知ってる。
きっと、自分の認識を変えて、自分を肯定するのが一番いいんだろうなぁ。
そう思いながら日記を閉じて机の横を見る。
机の横には今まで書いてきた三冊の日記帳が置いてあった。
今までの私の想いの集大成だ。
過去の自分より成長出来ていればそれでいいじゃない。
私は自分に言い聞かせる。
この誰にも見せられない日記帳は、いつまでも私には欠かせない成長記録だから。
きっとこれからも私は少しずつ成長していける。
私はペンを置くと、うーんと軽く伸びをして、ベッドに入って横になった。
カチカチと時計の針の動く音が耳に入る。
もう少しで・・・
0時!!
私は携帯を取って彼氏にメールする。
「起きてる?お誕生日おめでとうー!」
「ありがとう、まだ起きてたの?いつもこの時間寝てるだろ?」
彼氏の言う通り、いつもなら夢の中。寝るのが趣味みたいな私。
「でも、今日は特別な日だから、ずっと起きておこうと思って」
「そうなんだ、これから大変だぞ。いつまで続くかな?」
彼氏のメールに、ひどーいと声が思わず出る。
「そんな事ないよー。来年も再来年もずっとおめでとうって0時メールするもん!」
「分かった、ごめん、怒らないで。嬉しかったよ。一番好きな人に誕生日迎えてすぐメール貰えるって嬉しいもんなんだな」
彼氏のメールに私はニヤける。
「任務完了しました!明日のために私はもう寝るね。明日、またおめでとうを改めて言うから」
「任務ご苦労!お休み、また明日ね」
私は彼氏のメールを終えて、幸せな気持ちでベッドに寝転ぶ。
ずっとずっとメールしたいなぁ。
ずっと彼氏と一緒にいたいなぁ・・・と思いながら、私は夢の中に引きずり込まれていったのだった。
溢れる、溢れる気持ち
唯一無二の可愛らしい長い耳
ふわふわの体はいつ触っても柔らかくて暖かい。
撫でると目を細めてなぜか歯をカチカチと鳴らす。
逃げるときはシュバっと、まさに一瞬で脱兎のごとくどこかへ消えていく。
コードには注意。対策をしないと噛まれてしまう。
ぴょんぴょんと飛ぶ仕草も
耳が休んでいても常に全方向へ動いてる仕草も
物を食べているときのヒゲの動きも
全てが愛らしい
溢れる、溢れる気持ちを
私の愛しのウサギへ捧げる。
「バイバイ」
私は遠距離恋愛をしている彼氏を見送りに、夕方頃に新幹線の駅のホームにいた。
彼氏は私の方を見て寂しそうな顔をすると、ギュッと私を抱きしめる。
「またね、俺、この瞬間が一番嫌い」
「私も。朝あなたが新幹線のドアを降りて来た時が今日の一番幸せな時間だったよ。時間ってあっという間だね」
「そうだよな、一瞬しか一緒にいられなかった気がする」
私は彼氏に抱きしめられながら目を閉じる。
暖かい。この瞬間をずっと留めておければいいのにと思う。
「今度来れるのは再来週?」
目を開けて、彼を見上げると、彼は私を見下ろして言う。
「うん、今月は休日出勤少ないから再来週には絶対に時間作って会いに来るよ」
いつもは1ヶ月ほどは会えなかったりするから、今回の間隔は割と短いほうだ・・・でも私にとっては再来週でさえ長く感じる。
「長いね・・・。でも再来週に希望を持って頑張れそう」
私は、彼氏のまた会えるという約束に、心が、少しだけ上を向いた気がした。
それでも、別れたくないという気持ちは変わらずに私の心を占めていたけど。
「俺も、またすぐ会えることを考えて、仕事頑張るよ」
彼氏は私に笑いかけると、顔を近づける。
私も目を閉じて、私達は軽いKissを交わした。
Kissの後で二人で目を開けて微笑み合う。
「好きだよ」
という彼氏の言葉に、
「私の方が好きだよ」
と返す。
「俺に決まってるだろ。再来週証明するよ」
と彼氏は笑う。
私が頷くと、新幹線の出発のベルが鳴る。
「また再来週な」
と、彼氏が新幹線の中に入り、ドアの所で私に手を振った。
彼氏の顔を見てるのが切ないけど、少しでも長く見ていたい。
「また再来週に」
私は無理やり笑顔を作って手を振る。
ドアが閉まって、新幹線は発車する。
新幹線はどんどん遠ざかっていく。
私は、彼氏の乗る新幹線が見えなくなるまでその場から動くことが出来ずにずっと見送っていた。
僕は荒廃した土地を見回した。
ここはもう駄目だ。
地上は100年前に核戦争が起こって、地球の緑も荒れ果て、砂漠化も相まって住める状態じゃなくなっていた。
ここが昔は緑に溢れていたなんて伝説、僕には到底信じられない。
僕たちはかろうじて生き残っていた植物の種を地下で栽培して生きている。
地上に出るには、こうしてマスクをして出ないといけない。
何もない、砂だけ。遠くに崩れた建物が見える。
遺伝子異常を起こした動物が動いている。
あの動物達は何を食べているんだろう、と疑問に思う。
僕たちは地下に巨大な都市を建設している。
地上が荒れ果てて住めないと判断して、地下に潜ってなお、人類は増えている。
どんな事があっても生き物が絶えることはないんじゃないのか、と思わせる。
核戦争を乗り越えてなお、まだ生きている人類に想いをはせる。
この先何百年、何千年経ったとしても人類の命のリレーは続いていくんだろうか。
この先、地下核戦争が起こらないとも限らないだろうに。
そう考えて、背筋が寒くなる。
もし地下に住めなくなったら今度はどこへ住みだすのかな。
人間の生命力の強さと、戦争の愚かさにため息をつき、僕は地下への階段を降りながらマスクを外した。