「あらまあ今日は寒いから、
お紅茶淹れようねえ」
そう言って義母は、
いつも美味しいお茶を
淹れて迎えてくれた。
茶道を習っていたおかげなのか、
紅茶でも煎茶でも、義母の淹れるお茶は
何でも美味しかった。
ちなみにその茶道は、
足が痺れるからと辞めてしまったのも
天然エピソードのひとつだ。
天然で、いつも笑顔で、周りに愛され助けられる義母。
対照的に、実母を思い出す。
友達は数えるほどで、条件付きで人を愛し、
助けなど拒む実母。
この2人が私の人生に
居る意味は何なのだろうか。
そんなことを思ってると紅茶が冷める、
早く頂こう。美味しいうちに。
愛言葉
「愛してる」
あなたはいつもそう言って
電話を切った
その言葉は
私がいつも欲しかった言葉
まるでシャワーのように
その言葉を浴びせてくれたね
そのあなたは
今 私の隣にいる
もうその言葉も
目も
耳も
喪ったけれど
私は生きてゆける
あのときの
あなたの言葉が今も
私の耳に響くから
「愛してる」
友達
大人になると、友達を作れなくなる。
幼い頃は、隣同士や同じ班、
出席番号が近い、
それだけで友達になれたのに。
就職、結婚、出産、引越しetc etc
人が離れるきっかけはたくさんあって。
仕事に出る、趣味の集まり、ボランティア、
友達を作ろうと思わなれければ作れない。
それも何か哀しくて。
「友達100人できるかな」
呑気に歌っていた頃が懐かしい。
行かないで
またか。私は勤務先のロッカーの前に
立ち尽くした。
履き古しのどた靴が5.6足も
詰め込まれている。
誰の仕業か分からない。この3ヶ月、1週間か10日に1度くらい、思い出したかの様に
起こる。
そんな朝をやり過ごし、靴は職場のゴミ箱に押し込み、夜は予約していたいつもの店へ。
12年前に亡くした娘の、今日は誕生日だ。
前菜、スープ、メインのステーキ、
25本の蝋燭を灯したバースディケーキまで、
食べ続けた。
会計の時、
「12年間私の悲しみに
付き合ってくれてありがとうね。娘も25歳になりました。」
と頭を下げた。しかし、レジの女の子は
なんとも言えない表情をして、オーナーを
呼んだ。
私は同じことを言おうとして制された。
「申し訳ないが、
この店は去年オープンしたばかりだ。
その前は日本料理屋だった。そしてあなたは
今日が初来店だ。
何か勘違いされていませんか。」
そこから、どこをどうやって家まで帰ったか、覚えていない。
そもそも、ここも私の家なのか。
朝の出来事だって、噂されてなかったか。
『自作自演…』と。
脳裏に、ゴミ捨て場で靴ばかり漁る自分の姿が浮かんでくる。
いや、そんなはず、そんなはずない
わたしはーーー
私の脳は、記憶は、どこに行こうとしているのか。
不意に部屋の扉が開いた。
「お父さんお帰り。ずいぶん遅かったね。
今日私の誕生日だって、忘れちゃった?」
私は声にならない叫び声を上げた。
どこまでも続く青い空
どこまでも続く青い空の下には
君の笑顔が眠っている
噴水の下で水を跳ね返しながら
アイスクリーム屋さんでフレーバーを迷いながら
波打ち際に座り込みながら
この夏、君はいつも笑顔だった