「私にとって
運命の赤い糸で結ばれた相手は
ただ1人 あなただけ」
娘の時分に読んだ、ロマンス小説ばりの
そんなセリフを言えるのは、
現実に何人いるだろう。
結婚した人の六割は、
離婚を考えたことがあるという。
私も例に漏れずその何割かの1人。
ちくちくとしたモラハラ風嫌味。
家事も育児も、私がギリギリ耐えれるだけの負荷をかけてくる。
絶対離婚してやる!という決定打は無い。
今、私の赤い糸の片方は、
ふらふらと風に吹かれている。
誰がそれを捕まえてくれるのか、なんて、
白馬の王子様を私は、
こんなオバサンになっても、
夢見ているらしい。
今宵は昔読んだ小説でも引っ張り出して、 ハラハラドキドキしてみるか。
夫とはとうに別寝室。
誰に気兼ねするでもなく。
「運命の赤い糸切れてる時間」を楽しもう。
その向こうには何があるのか。
消えかけの虹。
校区境の踏切。
薄暗い鳥居。
そして入道雲。
自転車をがしゃがしゃ漕ぐ。
朝、入道雲はもう空にある。
見下ろされながら時間と戦う。
横断歩道で待ちながら一息ついていると、
青信号を待ちきれない生徒たちが
次々と追い抜いていく。
慌てて真似する。
やっと着いた自転車置き場から飛び出す。
校門をくぐる。
帰宅部の私の自主練のような、
毎朝の儀式。
その向こうに何があるのか。
その旅はいつも途中で終わり。
始業の鐘が雲の峰に響く。
夏 夏は夜
夜、花火。
記憶の中の花火を見ている自分は、
決して独りではない。
友人と、恋人と、家族と。
友人だった人が、恋人となり、家族となる。
それをずっと花火は見ていた。
一瞬で花開き、散る花火は
連綿と続くそれを見ていた。
一瞬と 永遠と
夏はその繰り返し。
ここではないどこか。
ココデハナイドコカ。
どこでもないここか?
どこでもあるいまか。
かえりたい
かえりたい
どこかへ
かえりたい
春 北国に帰る渡り鳥
秋 産卵のため川を遡上する鮭
彼らを見るたび強烈に思う
かえりたい
どこへ?
渦の中心
始まりの螺旋
銀河の
排水溝の
その向こう
はじまりのばしょへ
はじまって、おわる ばしょへ。
それはいつだろう。君と最後に会った日。
私たちは、いつも一緒だった。
音楽が大好きで、74分ギリギリまで入れたおすすめのCD-Rを焼いては交換し合い、ライブがあると知れば、隣の市まで車を運転して出かけた。物販のライブTシャツを着た帰りの車の中では、大声で歌い合ったね。
お互いに結婚し、私は郷里を離れ、CD-Rもどこかにいき、手元に残ったのはくたびれたライブTシャツと君との思い出。
あのバンドは今年再結成するんだって。
君に、連絡を取ってみようか。最後に会った日に、時間を巻き戻して。
その時の「ドレス」コードは、
あの時のライブTシャツ。