熱が出た。
1人で帰るのはかなり難しそうだったので迎えに来てもらった。熱が出たり、体調不良の時の親に心配されている、親の視線を独占してるあの感じ。久しぶりだ。
熱を測ると38度。ダルくて、寒くて動けん。…
そんな私の為に、湯たんぽやら、冷えピタやら色々と持ってきてくれた。
「何か食べたいものはない?」普段ならあんまり聞かれない。今なら、高いアイスも買ってもらえそうだ。
翌日、病院に行って薬をもらい、次の日。『微熱』…
ああ、もう直ぐ治るな。もうすぐ、この特別な時間ともおさらば…。
今だけでいい、この『微熱』が続けばいいのに。
だんだんと外の空気も寒くなってきた。
そろそろ衣替えをするか。爽やかさを感じる服を仕舞い込み、見た目の通りに包み込んでくれるような暖かな服と、こんにちは。
着々と衣替えが進んでいると、ペタペタと足音をさせて、妹やって来た。私が衣替えをしている側でゴソゴソと何かしているなと思いつつも手を止めずに作業を続ける。すると、
「おねえちゃん!」
幼く愛らしい声で私を呼ぶ。
その声に振り向くと、私の『セーター』に食べられてしまった私の可愛い妹が、袖をたくさん余らせて、すこし誇らしげにイタズラな笑みを浮かべている。
私は少し嫌な顔をしつつも、セーターのモクモク具合と、それに埋まっているかわいい生き物を一緒に抱きしめた。
今年もお世話になります。『セーター』さん。
眠る前のあの瞬間が大好きだ。もう休んでもいいよと体が全肯定する。仕事も、家事も、勉強も、人間関係とも闘わなくてもいいあの瞬間。たまらない快感。
ああ、
どんどんと『落ちていく』
今日も。
眠った者にしか知らない世界へ。体の全ての許可を手に入れたこの意識と共に。
「おはよう。」
「行ってきます。」『行ってらっしゃい。』
「ただいま。」『お帰り。』
いつからだろう。君と話す言葉がこれだけになっていったのは。
僕は最近我慢してるんだ。けど、君は子供の世話に、家事に、仕事で忙しそうで。その度に僕はまた、君と話す機会を失っていったんだ。そしたらさ、君の好きなもの、好きだったもの、君との共通点さえも分からなくなってしまったよ。
こんな僕ら夫婦は、外からどんなふうに目に映るのだろう。僕らがはじめに描いていた理想とは、きっと違うんだろうな。
だからさ、何かきっかけが欲しいんだよ。
君ともう一度『夫婦』になりたくてさ。
私は、教師のある秘密を知っている。それは、蔵書紹介の紙を見ている時に友達から聞いた。
「この〇〇〇〇ってあの先生やったで。」
家に帰ると、本で話が合う父に話した。
数日後、父はその教師の書いた本のうち一冊を図書館で借りてきた。
私は気になって、その教師の本についてネットで調べてみた。驚いたことに、その教師の書いた本の中には、ある大きな賞を受賞しているものがあった。
父が借りてきたのは、その本ではなかった。それはやはり、賞を受賞しただけあって、予約で埋まっていたみたいだ。
今までは、教師という面でしかみてこなかった相手の新たな一面が見れる。こんなもの、ワクワクするに決まっている。相手の秘密を握っているというなんとも言えない優越感と満足感。これは、読むしかない。
と言っても、これは最初だけでそんなにこの感じは長くは続かない。
結局、私がその教師の本を読んだのは父がそれとなく勧めてきたからだ。
先に少し読み進めていた父は、その本について、価値観の破壊を受けた。と感銘を受けていた。私も、それに続いて読んでみた。
まずそれを読んで思ったのは、やはり人に勧められて読むものは、相手がここが良かった!というポイントをいつの間にか少し気にしながら読んでしまう。そうすると、面白みも、自分が新たに発見して読もうと思ったものに比べれば、やはり半減してしまう気がする。
少し、残念な気持ちを抱きつつも、1ページ1ページめくっていった。
面白かった。が、この面白いというのは、中身のこともあるが、それよりも教師という面を被っている人間の密かな活動を覗いているという状況が面白かった。
身近に、それも学校という限られた空間の中に、大きな秘密を抱えている人間がいる。
本というのは、私の人生のバイブルだ。それを書く側の人間がまさに手の届くところにいる。そんな状況、今まで誰が想像しただろうか。
しかし、これから『どうしたらいい』のだろう。私は、もうその教師のことを、今までのように「教師」として認識することはできない。教師、ではなく、どちらかというと、作家が目の前で授業をしている。というふうにしか捉えられなくなってしまったではないか。
だが、よくよく考えてみようではないか。その教師の本のファン側からすると、その本の作者に教えてもらっている私はなんと幸運なのなだろうか。
こう考えると、なんとも得をしているような気分になる。それも、学生であるという立場でしか味わえないとなると、美味しさも倍だ。
こんなわけで、知ることもなかったであろう秘密を知ってしまったのだが。もしかしたら、本人としては秘密ではないかもしれない。それを聞こうか、聞かないかで今私は授業の度にグルグル考えるのだった。