明日が君と会う最後の日になる
どれだけ君の手を握ろうとも
どれだけ君を抱き締めようとも
今この瞬間も私は君から遠のいている
この感情は二度と味わいたくないものだけれど
味わうことが出来たらどれだけ幸福だろう
そのとき私は君の傍にいるということだから
君を思い出すことも
悲しみも苦しみも愛しさも
二度と味わうことが出来ない
どれだけつらいことか
それすらももう味わうことはない
幸せとは、他人を交えなければ得られぬ感情である。
幸せとは、他人と自分を完全に切り離した先に初めて得られる感情である。
どちらも正しくどちらも残酷だ。
自分はどちらの幸せを得たいのか。
私には歳が七つ離れた姉と五つ離れた兄がいる。
兄弟三人とも父親から暴力を受けたことはない。
兄弟三人とも何不自由なく育ち、大学を卒業した。
ただ父親は、頭に血が上るとひどく怒鳴るのだ。
今でもはっきりと思い出す。
「お前たちは俺に飼われてるんだ。俺を不快にさせるな。言うことを聞くのが当たり前なんだ。」
父親が姉に言った言葉だ。
当時、私は五歳だった。
姉が何か悪いことをしたのか、言うことを聞かなかったのか、父親にひどく怒鳴られていた。
姉は震えて身動き一つ取らなかった。
その光景と父親の言葉をはっきりと覚えている。
友人たちの父親はみんな優しそうに見えた。
ふざけあって、父親を馬鹿にして、笑い合っている。
なぜ、自分の父親はそうじゃないんだろう。
父親が仕事から帰ってくる。鼓動は早まり、全身がピリピリとしびれ、脚が鉛のように重くなる。
二階の部屋へ閉じこもる。
会いたくない、ではなく、存在を消したい。父親の記憶から消えて無くなりたい。他人になりたい。
そう思う毎日だった。
自分は恵まれている。何一つ不自由なく成長できたのだから。世の中には想像を超える不自由な人間がいる。それに比べたら自分は幸せだ。
そう思わないといけないのだろうか。
私は日頃から息を吐くように嘘をついてる
若いときはさ、一緒にいるだけで楽しかったんだよ。金が無くても部屋が狭くても、お互い若いってだけでそれはもう無敵だったんだ。
戻りたいかと聞かれたらそりゃあ、戻りたいよ。戻って、好きな人をもっと大切にしろって言ってやりたいよ。歳を取ってから後悔するんだぞって。
…そう言ったとしても、俺は聞く耳持たないんだろうな。後悔ってそういうことだよな。