ハル

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私には歳が七つ離れた姉と五つ離れた兄がいる。
兄弟三人とも父親から暴力を受けたことはない。
兄弟三人とも何不自由なく育ち、大学を卒業した。

ただ父親は、頭に血が上るとひどく怒鳴るのだ。
今でもはっきりと思い出す。

「お前たちは俺に飼われてるんだ。俺を不快にさせるな。言うことを聞くのが当たり前なんだ。」

父親が姉に言った言葉だ。
当時、私は五歳だった。

姉が何か悪いことをしたのか、言うことを聞かなかったのか、父親にひどく怒鳴られていた。
姉は震えて身動き一つ取らなかった。

その光景と父親の言葉をはっきりと覚えている。

友人たちの父親はみんな優しそうに見えた。
ふざけあって、父親を馬鹿にして、笑い合っている。
なぜ、自分の父親はそうじゃないんだろう。

父親が仕事から帰ってくる。鼓動は早まり、全身がピリピリとしびれ、脚が鉛のように重くなる。
二階の部屋へ閉じこもる。

会いたくない、ではなく、存在を消したい。父親の記憶から消えて無くなりたい。他人になりたい。
そう思う毎日だった。

自分は恵まれている。何一つ不自由なく成長できたのだから。世の中には想像を超える不自由な人間がいる。それに比べたら自分は幸せだ。



そう思わないといけないのだろうか。


6/6/2024, 1:55:48 PM