鋭い眼差しで見つめてくる金髪の彼のことを私は知らない。知らぬ間に恨みを買ったのか、ただ彼の目が悪いのか、元々あんな目つきなのか……。
恨みを買ったのならばいつだ?バイト先のカフェは高校生も利用している。最近、何かやらかしたってこともないはずだ。はじめたての頃は良く商品を間違えたり、お釣りを間違えたりと何かとやらかしていたけれど、2年以上になればミスも減る。それに彼のように目立つ髪色の客なら覚えているはずだ。きっとバイト先ではないだろう。ならば、学校か?とはいえ、学校では眼鏡陰キャで通っている私だ。だいたい友達も少ないし、揉めるほど学校に馴染んでない。悲しいけれど……。
「なぁ……」
声をかけてきたのは件の彼だ。
結局、何をしでかしたのか思い出せなかった。
とりあえず、謝るか。
「ごめっ……」
「お前、2駅先にある男の娘カフェの櫻子ちゃんだよな」
「えっ?」
なんでバレたんだ。店の私は今の私とは全く違っているし、ウィッグもメイクも日々頑張っているのに。
いや、それ以前に私は男の娘姿で店外に出たことはない。
パニクっている私に続けて彼が放った言葉はさらに私を混乱させた。
「俺、実は常連なんだ」
子供のようにはしゃげなくなり、日々の仕事に忙殺されていた。そんな私が出会ったのが"推し“だ。出会いはあまりに突然だった。荒んでいた心にストンっとハマった。インドアだった私が彼に会うため各地へ飛び、イベントやライブに参加した。すごく幸せな時間だった。しかし、そんな時間はすぐに終わりを迎えた。仕事が多忙を極め、推し活に割く時間が失われたのだ。起きて仕事して帰って寝る。休みも寝ているだけで気付いたら終わる。何のために生きているのだろう。推し活が、推しがどんなに私に力をくれていたのか。あの楽しかった日々は戻る日が来るのだろうか。もう一度、子供のようにはしゃぎ、推しと生きていたあの日に私は戻りたい。