弟と四年ぶりに再会した。
というのも、私が結婚して新幹線の距離に引っ越した時期と、例のウイルスの蔓延時期が被ってしまい、実家に帰省出来ずにいたのだ。
久しぶり、の第一声に、はて、弟はこんな声だったか?
と思ってしまった。
先に声を忘れる、というのは本当らしい。
私との挨拶もそこそこに、彼は真っ直ぐ部屋の奥へ進んだ。
去年生まれた甥に会うために。
人見知りをして緊張する0歳児を前に、かわいい、小さいを連呼する弟。
まあ、可愛がってくれるならいいか。
ゴーン、ゴーン。
除夜の鐘が、遠くから聴こえてくる。
冬の澄んだ空気は、遥か彼方の様々な音を届けてくれる。
踏切の警報音。バイクのエンジン音。若い子たちのはしゃぐ声。
年越しそばをすすりながら、一年を振り返る。
まあ、なかなかに、充実していたんじゃないの。自分で自分にはなまる。
つゆを吸って、でろでろになったかき揚げ。これが美味いんだ。
こたつ、みかん、お茶、そば。日本の冬。一人で迎える新年。みんなそれぞれの年越し。
どうか来年も、佳い一年となりますように。
二月の終わり。寒い冬の日。日が落ちる頃。
緊急帝王切開で生まれてきたあなた。
小さすぎる手に触れて、すぐに引き離されてしまったね。
保育器の中で懸命に生きるあなた。日に日におおきくなる手。
夏の終わりにようやく退院して、家族三人の生活がはじまったね。
ミルクをあげるのも、オムツを替えるのも、お風呂に入れるのも。
不慣れで危なっかしくて、あなたはもしかしたらちょっと不快だったかもね。
でも私はママ初心者なんだ、許してよ。
もうすぐ一年が巡る。あなたは本当に大きくなって、元気に笑って、泣いて、眠って。
こんな幸せな日を送れるなんて、思わなかったよ。
ありがとう。世界で一番、愛してる。
「おみかん、食べる?」
まだ話せも食べられもしない息子に問い掛ける。
色が気に入ったのか、先程からじっと見詰めて手を伸ばしてきたのだ。
「おみかん、オレンジ色で綺麗ねえ」
あぶあぶ、だーだー。
「なぁに?おみかん持ってみる?重たいよ?」
持てるはずがない。小さな手に触れさせて、オレンジ色よ、綺麗だねえ、美味しそうだねえと繰り返す。
「おっきくなったら、一緒に食べようねえ」
みかんを払い除けて、今度は私の指を握っている。
温かな幸せをかみ締めながら、一つ二つと剥いていく。
甘酸っぱい。
もう長らく、冬休みなんてものとは無縁だ。
大学生の頃に戻りたい。お金は無かったけど、今より体力があったし、なんでも出来る気がしていたから。
31日に仕事納め、4日に仕事始め。その僅かな期間は、寝て過ごす。
旅行を楽しむ気力は無い。初詣?初売り?そんなものに行くなら休んでいたい。
買いためておいたカップ麺を、お腹がすいたら食べて、時々お酒を飲んで、一応毎日風呂には入るが、大体寝て過ごす。
ただただ、無気力。充電期間。足りないけれど。
年末年始に休みがあるだけマシな方だ。転職前は日にちも曜日も分からなくなる働き方をしていたから。
ああ、ほんとに、大学生の頃に戻りたい。