穏やかな風が吹き抜ける。
隣を歩く彼女が心地好さそうに、長い髪を揺らしていた。
過ぎ去って行く夏の空気に、僕は少しだけ後悔している。
たくさんあった夏の思い出の中、僕は彼女と多くの時間を共有した。あんなにも一緒にいて、二人きりになる一時だってあったはずなのに、僕は未だこの胸にしまう気持ちを取り出せないままだ。
夏の暑さに浮かれれば、その勢いで言えるかもなんて、淡い期待までしていたのに。僕の意気地の無さは予想以上だったらしい。
「もうすぐ秋だねぇ」
柔らかに口元を綻ばせた彼女が、嬉しそうに言う。
「別に夏は夏で嫌いじなかったけど、私、秋って好きだなぁ」
「まあ、気温も過ごしやすくなるしね」
「ほら、秋って景色が色付く季節でしょ? だから、すごくいいなって思うの」
彼女は何故だか首だけを僕の方に向けて、嬉しそうにはにかんだ。
「きっと綺麗で楽しいよ」
そう告げた彼女の笑顔が、まるでスロモーションのようにゆっくりになって、僕の瞳に焼き付く。
ああ、まいったなぁと、内心で溜息をつきながら、僕は表情に出さないよう何とか耐えた。
秋の涼しさに当てられても、自分の中に燻る熱までは冷めないようだ。
そんな自覚を改めてしてしまえば、僕の心は早くも鮮やかに色付き始めていた。
【秋恋】
ありがとう
捨ててしまいたいと思っていた僕の人生に
君が現れてくれたおかげで
君が寄り添ってくれたおかげで
僕は初めて僕の人生を
大事にしたいと思ったよ
【大事にしたい】
ふと鏡を見ると、老けたなーって思う。
毎日の忙しさに追われ、自分を顧みる余裕などない。
けど、ふと何気なく気を抜くと。
そこにいる自分の。
昔とは違う顔つきに愕然とする。
ああ、もう。頼むから。
時間よ止まれ。
そして何にもしなくていい長い休息日を私にくれ。
そんなことを日々夢見ることもある。
でも、いいよね。
夢見たってさ。
夢見る時くらい、時間が止まったような錯覚にとらわれても。
それくらいは、大目にみてほしい。
だってこんなに、頑張ってるんだから。
【時間よ止まれ】
今まで色々な景色の中に僕はいたことがあったけど。
君が隣に居た時に見た何の変哲も無い夜の街の風景が。
何故か一番思い出す回数が多いんだ。
【夜景】
君にただ知ってもらいたかったんだ。
僕が君にどれだけ救われてきたかを。
この視界いっぱいに映る花たちの数だけ、僕の気持ちは君にある。
それをどうか忘れないで。
【花畑】