浜辺に打ち上げられた貝殻を拾い上げ
穴に耳を当ててみる
どこかしこかの波の音が聞こえた後に
「たすけて」
という声が鼓膜を貫いた
びっくりして貝殻を離し
浜辺に落とす
最近は海での事故が多いときく
この貝殻はいったいどこの波間から
この浜に流れ着いて来たのだろう
【貝殻】
華やかな大都会。
彩り鮮やかなネオンの下で。
豪奢なファッションと高貴なアクセサリーをこの身に飾り付け、派手なメイクに艶やかな香水をその身に纏う。
そこはまるで摩天楼に囲まれた桃源郷。
どこもかしこも眩さに溢れている。
私はその輝きに当てられて。
きらめきの中に沈んでいく。
私を沈ませるために足を引きずる何かが。
きらめきとは程遠い、暗い闇底に続くものだとは知らずに。
【きらめき】
私のことは放っておいて。
私を護ってばかりだと、貴方は傷付いてばかりじゃない。
そう言って泣きじゃくるお前に、俺みたいな頭の悪い奴は気の利いた言葉なんて吐けない。
だから、まあ、適当に台詞を並べ立ててみる。
些細なことだ、お前を助けることなんて。俺が生きるための暇潰し程度のことなんだから、気にしてんじゃねぇよ、と。
──お前が死んだら、どうせ俺は生きていけねぇんだから。
けれど、何故か最後に思い浮かんだ言葉だけは口にすることができなかった。
【些細なことでも】
僕は生まれた時から目が見えなかった。
世界の輪郭も色も、誰かの表情も僕にはわからない。
人生について不便なことは確かにあるけど、僕は不幸ではなかった。
顔の分からない友人や家族が僕にいつも寄り添ってくれていたし、何より世界が優しいことを僕は知っていたからだ。
ある日、僕が通う学校のクラスに転校生がやってきた。遠くの地から来たという彼にみんな仲良くするようにと先生が告げた。
僕には彼の顔が見えないから、周りの友達にどんな子なのかを聞いた。
友達は何だか無愛想だよ。態度が怖いよ。あまり関わらないほうがいいかもと告げていった。
そうなのか。怖い人なのか。
僕は不思議でならなかった。
ある日、僕が職員室に呼ばれてから教室に戻ると、「おい」っと後ろから声を掛けられた。あまりよく知らない声だったので「ごめん。誰かな?」と僕が尋ねると、転校生の彼だった。
「次の授業、移動になった」
「そうなんだ。ありがとう、教えてくれて」
僕がお礼を述べると彼は「ん」と小さな声を出した。その時に僕は気付いたのだ。
「もしかして、待っていてくれたの?」
「・・・・・・いや、ただ俺、まだ他の教室の場所わかんねぇから、他の人の後について行ってて、それで大体最後のほうに移動してるから」
あんたが教室出てから戻ってないの知ってたからさ。そう言った彼の声から彼の優しさが伝わってきた。
「それじゃあ、一緒に行こう」
僕が手を差し出すと、しばらく彼は沈黙した後、僕の手を取った。
「ん」
僕は彼と話せたことが嬉しくて、自然と笑ってしまった。
僕は生まれた時から目が見えなかった。
けど、不幸ではない。
何故なら僕の視界は光で溢れている。温かな灯火がたくさん僕の周りにともっている。
僕は生まれた時からこの灯火に囲まれていた。これが誰かの心の灯火だと気付いたのは、大きくなってしばらく経ってからのことだ。
僕は生まれた時から目が見えなかった。
世界の輪郭も色も、誰かの表情も僕にはわからないけれど。
僕は世界が優しいことを知っている。
【心の灯火】
ずっと開けないLINEがある。
それに既読をつけたら返事をしなければならない。
返事をしなくても、読んだことが相手に知られた時点で、私の止まっていた感情は答えを出さなければならない。
受け入れるか、拒絶するか。
さよならするか、追い縋るか。
そんな醜い自分に会いたくない。
でも開かずにしらばっくれるほど図太くもない。
開けないLINEはまるで重りのようだ。
軽やかな音の通知音が鳴るたびに、私は重りの存在を思い出す。
今日こそは解き放とうと決意をしてみたり、でも、できなかったり。
【開けないLINE】