「今夜泊まらせて?」
突然やってきたそいつは、何とも清々しい笑顔でそう宣った。
「帰れ」
玄関の扉を半分ほど開いていた俺は、そのまま部屋に戻ろうとする。
「いや、ちょっと待って! なぁ、頼む、この通り! お前だけしか友達いないんだよぉ」
何とも虚しい事実を暴露しながら友人が食い下がってくるが、よくよく考えると俺自身にも友達と呼べるのはこいつくらいだったことを思い出す。
「・・・・・・お前なぁ、いくら友達だからってちょっとは配慮しろ」
「大丈夫、着替え諸々は持参してきた! 食費だってちゃんと払う用意はできてる!」
「そういうことじゃねぇ・・・・・・。まぁ、いいや。あまり散らかすなよ」
「サンキュー、心の友よ!」
そいつは意気揚々と上がり込む。ちょうど午前中に掃除をしたばっかだったのが幸いだった。
「あ」
そこで俺はあることを思い出す。
「おい、やっぱ、ちょっと待て・・・・・・」
「なあ、お前の洗濯物たたんでやろうか?」
「絶対に、触るなよ!」
俺は途中になってた、取り込んだばかりの洗濯物の存在を思い出す。
「あ、お前って、パンツはトランクス派なんだなぁ」
そう言ったそいつの手には、俺のパンツが躊躇いなく掲げられていた。
「おい、コラッ! ふざけんな!」
やっぱこいつはタチが悪い。女らしいとこはひとつもねぇのに、顔はまあまあ美少女なのがさらに憎らしかった。
「やっぱりお前、帰れ!」
俺はもう足掻いても仕方ないとは分かっていながらも、思いっきり叫んでやった。
【突然の君の訪問。】
雨の中。
男は傘も差さないで立ち尽くす。
髪の毛や服から滴をしたたらせながら。
もう泣けなくなった自分の代わりに。
空が泣いてくれているのだと。
頬を伝った雨粒に想いを馳せた。
【雨に佇む】
つらつらとその日の出来事を文に認める。
私の経験も想いも、全てが記されたこの日記帳。
誰にも見られたくないのは当然だけれど。
あの人に言えないこの気持ちが。
いつかこの日記帳におさまらなくなって。
溢れ出してしまうのだけが心配だ。
【私の日記帳】
私は姉で、あの子は妹。
双子の姉妹は瓜二つ。
向かい合わせになれば、まるで鏡のよう。
こんなに何もかもそっくりなのに。
どうして彼が選んだのはあの子のほうなのだろう。
私とあの子は瓜二つで、全部が全部、おんなじはずなのに。
ああ、そうか。
どちらも同じだから。
二つあると価値が下がるのか。
だったらひとつはいらないよね。
ふたつがひとつになれば。
彼は私を愛してるのと同じこと。
私は姉で。私は妹。
向かい合わせになったら。
私は私を──。
【向かい合わせ】
やるせない気持をずっと抱えて生きてる
どこかへ置いていきたいと
彷徨いながら毎日を過ごしているけれど
置いて行かれたくないと
泣き叫ぶわたしが見えて
この気持を手放すことが
できないでいるのだ
【やるせない気持ち】