どうしてかな。
鏡の前で何度も確かめて。
よし、この笑顔ならかわいいって。
大丈夫だって。
自分でも思えたはずなのに。
人前に出ると、その自信が揺らいでくる。
鏡の前で見た時と同じように。
私はいま笑ってるはずなのに。
相手の瞳に映る自分が見れなくて。
つい目を下へ逸らしてしまうの。
【鏡】
普段は頭の片隅にもないのに
何気なく掃除をしていたらふと目に入る
もうこれは使ってもいないし
別になくなったからって
生活に支障を来すものではないのだけれど
いざ手放すとなると
どうにも心の奥に引っ掛かる
そんなものばかりが
押し入れにある
箱の中に詰まっているのは
私だけしか知らない
【いつまでも捨てられないもの】
ある国の王の前で4人の男が膝をついて畏まっていた。
王はこの4人が先の戦で多大なる貢献をしたと聞かされ、それぞれに褒美を取らせようと思い呼び集めたのだ。
1人は言う。わたしは多くの敵兵をこの手で打ち払い、戦いに勝利を収めました。
1人は言う。わたしはたくさんの武器を作り上げ、戦況を有利にしました。
1人は言う。わたしは屈強な兵士を幾人も育て上げ、戦場へと送りました。
彼らの為しえた功績を王は順番に聞いていく。最後の1人の話に王が耳を傾けようとした時、最後の1人は言った。
「自国も敵国も関係なく、わたしは戦地でたくさんの負傷兵に治療を施しました──」
最後の1人の言葉に、他の3人は驚いた。
どうして敵側の人間まで助けたのだと、各々から疑問が上がる。
最後の1人は静かに告げた。
「わたしはわたしの誇りを守るため、あの戦地に行ったのです。わたしのしたことをお認めできないのであれば、どうぞ褒美はなかったことに。わたしはそれで構いませんので」
口を噤んだ3人に、最後の1人は一歩も引かなかった。思案した王は3人には褒美を取らせ下がらせた。最後の1人と二人きりになり、王は改めてその者に問う。
「お前はどの地へ行っても同じ事をするのか?」
「もちろんです」
王はその者に褒美を取らせた。そして、もうひとつ、その者に命じた。
この国に大きな病院を作れ。今や平和になろうとしているこの地に、かつての敵国だからといって、いつまでも憎しみを持つ者ばかりいては真の平和は訪れない。
お前はその憎しみを晴らすための第一の礎となるのだ。
最後の1人は深く頭を垂れると、自国の王に尊敬と誇らしさを持って了承した。
【誇らしさ】
怖いくらいに暗くなった海を
浜辺に立ち尽くしながら眺めていた
寄せて返す波の音が
まるで誘うように耳奥に響くものだから
ふと気を抜いたらあの夜の海へと
溶け込んでしまいたくなるので
わたしは慌てて
足元まで迫っていた冷たい水から
距離をとった
【夜の海】
自分の力でぐんぐんと進んで行く
風の影響をもろに受けるから
追い風の時は気持ちがいいくらいに速く
向かい風の時は押し戻されないように
必死に足に力を込める
何から何まで自分次第だけど
徒歩よりも快適で頼もしかった
今ではもう
車ばかりを使うようになってしまったけれど
たまにはあの頃を思い出して
また旅に出てみてもいいかもしれない
【自転車に乗って】